地獄めぐリゾート　in 魔界｜リアクション

地獄めぐリゾート　in 魔界

★捕まえてごらんなさい♪

（気が付いたら……また魔界、なのかこれ？）
　志波拓郎は、背中の悪魔の翼を確認しつつ思う。しかし服装は海パンだ。
（……自分、いつ寝たっけ……）
「またまた魔界にやってきたよ、今回は拓郎と一緒だね！　こないだはエステに入ったけど、こんなテーマパークみたいな場所があったんだね」
　胸の大きな小悪魔な水着姿の高梨彩葉は、楽しそうに隣の拓郎の筋肉質な悪魔姿を見やる。
（拓郎の悪魔姿かっこいいなぁ）
（小悪魔可愛い彩葉さんが一緒だから、幸せ）
　拓郎も同じようなことを考えつつ、慎重にあたりを見回す。
「ビーチ、なのかなここ……。なんか、地獄っぽくないな……」
　そうつぶやく拓郎だが、あたりの人や悪魔は皆楽しんでいるようだ。
（楽しそうだからいいか、うん……！）
「かわいいネコが居る！　これはぜひもふもふするしか無いね！」
　彩葉は歓声をあげて猫に駆け寄った。
「角生えてるけど、コレ……猫……？」　
　戸惑う拓郎だが、彩葉は気にせずもふりまくる。
「うひゃ～、かわいいな～。角が生えてるけど、魔界にもこんな可愛い猫が居るんだねぇ」
　前向きでテンションが高いのが彩葉のいいところだ。
（角はちょっと気になるけど、確かにかわいいな。モフモフいいな、そのモフモフしている彩葉さんも可愛いな……）
　彩葉に見惚れつつ、結局拓郎も猫をもふり始めた。
　
　思う存分猫をもふり終えて、彩葉たちはビーチに移動した。
「地獄の海って案外綺麗だねー」
　そんな彩葉に、拓郎は思い切って提案をした。
「なんか、ビーチでよく、女の子を男が追いかけるのとか、あったよね……」
「ああ、捕まえてごらんなさい～、とかいうやつ？」
「やってみる……？」
「やる！」
（拓郎から恋人っぽいことをしようと提案してくるなんて。勿論乗るよ）
　シャイな拓郎にもどかしい思いをすることもままあるため、この提案は彩葉にとって意外で、そして嬉しかった。
「うふふ～、拓郎。捕まえられるもんなら捕まえてみろ～☆」　
　走り出す彩葉を、拓郎は照れながら追いかけていった。
「彩葉さん、ま、まってー」
（照れてる拓郎も可愛いなぁ。一回こういう恋人っぽいことやってみたかったんだよね！）
　キャッキャウフフの追いかけっこを楽しむ二人。
「……まてー……！」
（ってあれ、拓郎なんか早くない！？）
　拓郎は真面目で、陸上部員だった。
　走り出せばつい加速がついてしまう。
「ちょ、拓郎、早い早い！！」　
　と声をかける彩葉だが、拓郎は止まらない。
　彩葉も竹を割ったような性格で、わざと捕まって甘えようとかいう発想はない。
（なんか私も早くなってるような気がする！！　なんで本気モードになってるの！？）
　いつしか翼も使った本気モードのおいかけっこになっていた。

「はあはあ、疲れた……う、うーん、結構遠くまで来ちゃったねー」
　ついに息を切らして立ち止まった彩葉に追いついた拓郎だが。　
「……翼、使ったせいか結構……遠くまで、きちゃったかな。ここもビーチなのか、って……血なまぐさい匂いが……」
「うわほんと血生臭！？」
　あたりにはキャッキャウフフにふさわしくない空気が漂っていた。
　海の色は血のように赤く、空は真っ暗で時折稲光が光った。
　稲光に照らされ、少し離れた眼下に、責め苦に苦しむ人々の姿が垣間見えた。
　どうやらマジ地獄の近くまで来てしまったようだ。
「って、なんかあそこすっごい過酷なことしてるー！？」
　見るからに不味そうな液体を飲まされ悶え苦しむ者、化け物に踏まれ血を流して悶える者……
（……気のせいかな、なんか喜んでる人居ない？）
　彩葉がそんなことを思っていると、拓郎が彩葉のほうを見た。
　彩葉が目くばせし、拓郎が頷く。
（ワタシタチハナニモミナカッタ）
　以心伝心、二人は速攻でその場を立ち去り、元いたリゾートビーチに戻っていった。

「やっぱり、こういう穏やかなビーチのほうが好きだなぁ」
　と彩葉。
「うん、やっぱりこの地獄の方が、自分……すきだ……」
　答える拓郎。
　リゾートビーチに戻った二人は、口直しに再び思う存分猫をモフるのだった。　
　　