地獄めぐリゾート　in 魔界｜リアクション

地獄めぐリゾート　in 魔界

■マジ地獄、視察中？

　一方こちらはマジ地獄。
「ほう……この俺に視察を要請するとは、よく解っている。何故なら俺が地獄の真の主なのだからな……」
　三夜暗は、神の中の神にして悪魔の中の悪魔。
　……という妄想をしている童顔の中学二年生である。
　年上の家族はそれぞれいろんな方向に濃いし、母さんは年下の兄弟の世話に手一杯。
　暗は微妙な構ってもらえない感を紛らわすため、自分が特別な能力の持ち主であるかのように振舞うようになっていた。
「俺が地獄に招待された以上、リゾートなどという生ぬるい体験をするわけには行かない……その『マジ地獄』とやら、どれだけ恐ろしいものか、是非ともお手並み拝見と行かせて貰おうか……」
　余裕でつぶやく暗だが、鬼に怪しい飲み物を手渡された。
　どう見ても美味そうに見えない色のものだったが、暗はかまわず思いっきり呷り、次の瞬間噴出しかけた。
「うおっ、まるで墓場の草と土を混ぜたような味だな！　だ……だが俺は無敵だ、この程度でへこたれたりはしない」
　吐き出すのをこらえたのは、やはり日ごろ大家族の中で食べ物を大切にする教育を受けている賜物だろうか。
「ふん……良くはないが最悪には程遠いな……まだまだ工夫が必要だ」
　虚勢を張る暗に、鬼が面白そうに言った。
「それではこれはどうかな？」
　さっきよりさらに怪しい色と、ヘドロの香りがする飲み物を渡される。
　暗は冷や汗を浮かべつつ、たまたま隣にいた銀髪ロングの高校二年生の嘉月兔ネヴィアにそのグラスを手渡して、
「……この試飲はお前に任せるとしよう。俺の手ずからのグラス、ありがたく受け取るがいい」
　偉そうに言った。
「地獄だと……こんなところがあるのか。ほほう、試飲？　味わわせてもらおうではないか」
　グラスを受け取り口にしたネヴィアは。
「ぐっ……ぐはあああーーーッ！！　なんと言う味だ、これが地獄のカクテルか……」
　美しい顔を歪ませ、しかし恍惚として悶える。
「……おい、大丈夫か？」
　押し付けておいて尋ねる暗は、ネヴィアの怪しい反応に引いている。
　それがまた、ネヴィアの被虐心を刺激するのである。
「これっぽっちでは足りぬな……おかわりだ。もっとすごいのを持ってくるがいい」
　一見キャラがかぶっているようなネヴィアの言葉に、暗はアイディンティティの危機を感じるが、とてもあのまずいものをもう一杯飲む気にはなれない。
「くっ、なかなかやるな……」
　幸先悪いスタートだが、気持ちを切り替える。

「まだまだ俺の偉大さを地獄の隅々に見せつけるには足りないな、いろいろ案内させよう……」
　そう言って目を上げた暗は、遠くから手招きをする美女の姿を見つけた。
「ところであの女は何故俺を手招きするのだ？　向こうから来るのが筋なのでは？」
「まったくだな、庶民ごときが俺様を呼びつけるとは。一言言ってやらねば」
　二杯目を飲み干し更なる不味さに恍惚の表情を浮かべたネヴィアが同意し、美女のほうへ向かっていく。
「……あ、おい、待て」
　ついて行ったものか戸惑いつつも、先を越されるのも面白くなくてネヴィアを追う暗だった。
「……まあいい、さてここからが本番だ……」

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