モノローグの空｜リアクション

モノローグの空

【綾辻綾花の場合】

「……にゃにゃーん」
　せっかくにゃんこたちと戯れてるのに、どうしても、気が散っちゃうんです。
　ううう。迷っちゃう。決められません。
　あのホラー映画……すっごく怖そうですけど、出てくるにゃんこがすっごく可愛いって、評判で。うう～、見たい……でも、怖いのは苦手だし……ホラーなんて、お友だちも誘いづらいですし。
　ああ、どうしよう。上映時間まであと少し。でも怖そう。でも見たい……そうやって悩んでいたら、公園のにゃんこたちの猫メモばっかり充実しちゃいました。それはそれで、嬉しいですけど。
　ううう、決められない……って、わ！
「……綾辻さん？　何してるんだい？　また猫観察かな」
「け、珪先生……！？」
　どき、ってしちゃいました。だって、突然だったんだもん。

　駅ビルmiaoの最上階、『kenzakiシネマねこじま』は思ったより混んでいて、人ごみに流されてはぐれそうになって、思わず先生の服の袖をつかんじゃいました。
「奇遇だね、綾辻さんもこの映画見たかったなんて」
「はい、にゃんこが出るから……珪先生、ホラーお好きなんですか？」
「まあね。この映画も気になってたんだ」
　やった。珪先生の意外な情報、ゲットです。ホラー映画は怖いけど、先生が一緒だと心強いですね。
　コンセッションでポップコーンを買って、スクリーンの正面の席に、並んで座ります。良い席に座れてラッキーです。
　館内は少し薄暗くて、これから見るのがホラーなのもあって……何だか、どきどき。でも、どきどきするのはきっと、それだけの理由じゃないですけど。
　ちらっ。程よく落とされた照明の明かりに照らされる、珪先生の横顔はもう、あんまりにも素敵で……わ、わ！　め、目が合っちゃいました。どきどきどき。
「あ、あの……珪先生？」
「うん？」
「メール、私、たくさん送っちゃってますけど……その。迷惑じゃないですか？」
　この前電話番号とメールアドレスを教えてもらってから、何かあるとついつい、メールを送っちゃいます。一応、かわいいにゃんこの写真を送りますね、っていう理由で。さすがに電話は、緊張しちゃって、まだ出来てませんけど。
　分かってるんです。珪先生は、先生だもん。ひとりの生徒と親しくしてたら、迷惑になっちゃうかもって……だから、本当はもっといっぱいメールも送りたいけど、通話ボタンも押しちゃいたいけど、我慢。
　でも珪先生は、笑って言ってくれました。
「迷惑なんかじゃないよ」
　生徒との距離が近い、珪先生の優しさからの言葉だったとは思います。それでも私は安心して、何だかほうって、力が抜けちゃったみたいで。これから怖い映画を見るっていうのに、リラックスしすぎて、椅子にずるずるもたれちゃいました。

　上映中はずっと、先生の袖を握っていた気がします……だって、すっごく怖かったんだもん。
　でも、にゃんこは噂通り。すっごく可愛かった！
「あっ、そうだ。聞きたいと思ってたんです。珪先生は、甘い物好きですか？　チョコとか……」
　映画を見終わって別れ際、思い切って聞いちゃいました。来月はバレンタインだし、やっぱり、聞いておきたくて。
　珪先生は少し考えてから、
「そうだね、チョコレートは嫌いじゃないよ」
「良かった……それじゃ、楽しみにしていてくださいね♪」
「うん？　何をだい？」
　先生は分かっていないみたいだったけど、私は嬉しくて。ついつい、顔、にやけちゃってたかも。
「それじゃ綾辻さん、またね。気を付けて帰るんだよ」
「はいっ、さようなら、珪先生」
　帰ったら、今日は頑張って、電話をかけてみようかな。今日はありがとうございました、楽しかったです、って、ちゃんと伝えたいから。
　今なら、緊張しないで……通話ボタン。押せちゃう気がするんです。