モノローグの空｜リアクション

モノローグの空

【椿美咲紀の場合】

「むむむむむ」
　レシピ本とついつい、にらめっこ。
　難しそうなのです。ショコラシフォンケーキ……こんなに難しいのですか。
　見た目がシンプルなシフォンケーキなら、簡単かなぁ？　なーんて思った昨日のあたしちゃん、なんておバカちゃんなの……！

　もうすぐバレンタインなのです。つまりはそういうことなのです。
　予行演習のつもりで、なるべーく簡単そうなレシピを選んで。いざ作り始めたところで、分かってしまったのです。
「むむむむむ……！」
　コレ、けっこう難しいのですよー！
　メレンゲって、どこまで泡立てたらいいの？　加減がサッパリ分からないのです。混ぜすぎちゃダメって書いてるけど、どのくらい？　泡立てすぎもダメってわわわわわ、あわわあわあわあわ。混ぜすぎちゃったみたいです……。
「苦労してるのですねー。ケーキなんてやめちゃったら？　チョコクッキーなら簡単で美味しいのですよー☆」
　ああ。頭の中で、悪魔なあたしちゃんが魅力的なご提案。
「いえいえ、シフォンケーキ、ふわふわで美味しいですよ～♪　部活のみんなだって、きっと喜んでくれるのですよー」
　あああ。天使なあたしちゃんも、へらへらと笑いながらごもっともなご意見を。
　ゆらゆら、ぐるぐる。きっと今の私は、おめめがぐるぐるです。悪魔なあたしちゃんは、ラクだけど現実的な道を教えてくれます。そう、頑張って作っても、美味しくできなくちゃ意味がないのです。でも天使なあたしちゃんも負けてません、理想を高く持つことは大事なのです。みんなに美味しい美味しいケーキを食べてもらいたいのです。
　ゆらゆらゆら、ぐるぐるぐるぐる。
「……大丈夫！」
　まだまだ、時間はあるのです！　バレンタインは来月、それまでに頑張って練習すれば、きっと美味しいケーキが作れるようになるのです！
　そう……あたしちゃんも、乙女のはしくれ！　いつもいつも、メイドさんに手伝ってもらうばかりじゃないのです。ひとりでだって、きっとやればできるのです。そうなのです、お菓子のひとつやふたつ、見事に作ってみせま「ムリムリ！　素直にメイドさんに手伝ってもらったほうが良いのですよー、失敗したら元も子も無いのです！」
「ダメダメ！　難しくてもひとりで作れるようになったほうが、出来た時の喜びもひとしおなのですよー！」
「かぶってる。かぶってる」
　邪魔しないでー！　天使で悪魔なあたしちゃんズ！

　なーんて、頑張ったほうだとは……思うのです……でもでも。
　ああ、メイドさんの苦笑いと優しい眼差しが、密かにココロへ突き刺さるのです……っ！
「ど、どうしたら良いと思いますか？　どこを直したら良いですか……？」
　それでも、こうやってお料理のプロに試食してもらえるのは、やっぱりありがたいですねー。教えてもらったアドバイスを、ぜーんぶメモメモ。次はきっと、もっと美味しいショコラシフォンを作れるはず！
「うーん、素直にチョコクッキーにしといたほうが良いと思うですよー？　ケーキはきっと、まだ早いのです」
「大丈夫！　バレンタインまで時間はタップリです。乙女は一途で頑張り屋なのです、きっと美味しく作れるようになるのですよ☆」
「そうですかねー？　まー、そう言うなら頑張ってみるのですよー。応援してるのです」
　あたしちゃんズもこう言ってます。メイドさんだってもちろん、応援してくれてます。
　やりますよー、私！　ゼッタイゼッタイ、美味しい美味しいショコラシフォンケーキを作って、みんなに食べてもらうのです！　喜んでもらうのです！
　待ってるですよー、バレンタイーン！！