走れ！リボンだけをその身に巻いて！｜リアクション

走れ！リボンだけをその身に巻いて！

　青山絢にとって、ことの発端は買い物に出た街で出会った怪しげなスタッフだった。
　最初は何食わぬ顔で世間話などを持ち掛けてきたスタッフ。
　特に拒否する理由も思いつかなかったため、絢は適当に相手をしていたはずだったのだが、
　気が付けば、奇妙なマラソン大会への出場決められていたのだ。
　スタッフの話術が巧みなのか、あるいは絢のお断りスキルが低かったのか。
　どちらが主な原因となったのかは不明だが、とにかく絢はマラソン大会に出ることが決まってしまった。
「なんでこんなことに……」
　本当はすっぽかそうと思っていたマラソン大会。
　だが絢と同居する従姉妹がそれを許してくれなかった。
　異様に嬉々とした様子の従姉妹の手により、
　絢の身体にはあれよあれよという間に水色のリボンが巻かれ、
　あれよあれよという間に会場まで連れだされてきたのである。
　会場に着き、おもむろにコートを脱がされる絢。
「これじゃただの変態女じゃない！」
　絢は恥ずかしさに身を揉んだが、大丈夫。変態のような格好をしているのはキミだけじゃない。

「え……えぇっ！？　私、これに出場するの！？」
　会場に着いてからそう声を上げたのは羽生碧南だった。
　自身が所属する女子バスケ部、そこの部員たちから「マラソン大会がある」とは聞いていたが、
　碧南は、その服装規定がリボンであるとは知らされていなかったのだ。
　裸エプロンならぬ裸リボン！　しかも部員たちに指示されたリボンの巻き方たるや……
　Vゾーンを危うく隠すだけの深く切れ上がった腰回り、
　脇腹からみずみずしい果実のような胸先だけを覆って首へと回りこむ上半身。
　それはもはやリボンというよりはセクシー水着だ。
　ハロウィンでの悪魔バニーや、寝子祭前夜祭でのミスコン水着部にも負けない露出量である。
　しかもなんだか、日を追うごとに方向性が過激になってるような気がしなくもない。
「どうするのよ……」
　頭を抱えてボヤく碧南。これはどう考えたって走るという格好ではない。
「……というかこれで人前で走れとかもう無理ありまくり」
　大丈夫。それだけセクシーならば違和感はないはずだ……多分。

　はぁ。と顔を覆う絢。
　はぁ。と首を振る碧南。
　はからずも同時に漏れたため息に、女子高生同士が顔を見合わせる。
　多くを語る必要はなかった。
　何故かこのマラソン大会に出場させられた者同士。
　一つの不思議な運命共同体が生まれた瞬間であった。

　多くは語らぬ絢と碧南とは対照的に、熱く語りたいのは後木真央である。
「フンドシはっ！　下着だったり水着だったり神事用だったりするのだ、フンドシをこんなことに使うなんて破廉恥漢なのだ」
　一息に力説する真央。
　親友の八神修が横から冷静にツッコミを入れる。
「リボンに見えないかもしれないが、ちゃんとリボンだよこれ」
　生地は木綿ではなくサテンだし、色も鮮やかだし……。
　しかし興奮する真央の耳には、修の言葉は届かない。
「敢えて言おう、真央ちゃんの褌普及同盟とかの人のやりたいこととこのマラソン大会運営のやりたいことにはカ○リックとプロテ○タントほどの違いがあるとっ！　ゆえに真央ちゃんはこの挑戦を受けるのだっ！」
　神事で神輿を担いだり通りを練り歩いたりするのと、マラソン大会、やることは違えど大した差はない。
　ついでにいえば、今回身につけるのはリボンであって、フンドシやさらしでもない。
　傍から見ると一体どこにそんな熱くなる要素があるのかと思うところだが、真央はひたすらに怒り続ける。
　空気の読めないフンドシストの名は伊達ではないのだ。

　語らない女子2人と語る女子1人。
　やがて出場選手達はスタートラインの近くへと誘導されはじめた。

このページにイラストを設定する