おっぱいヒーロー見参！｜リアクション

おっぱいヒーロー見参！

【文房具屋狂想曲】

　それからしばらく文房具屋には一向に新しい客が訪れなかった。
（うーん。客が少ないのはいつものことだけど、さっきから妙に外に人の気配が感じられない気がするなぁ……）
　豊田華露蘿はひっそりと溜息を吐く。そりゃ店の前にガムテでぐるぐる巻きにされた変態が転がっていたら、誰も来ないのも当たり前である。
（……店の中は近所の子供ばかり。まあ、こののんびりとした店の雰囲気は僕も嫌いじゃないけど）
　さっき変態と遭遇した苛立ちを少しばかり忘れて、華露蘿が商品の文鎮など検品しつつ、小さく微笑したときだった。
「くっ……！　この島の黒髪ちっぱいはみんな狂暴だ！　こうなったら、今日から僕は黒髪巨乳フェチになるよ！」
「……って、また何かまた変なの来ちゃった！？」
　店の中に、さっきまでガムテ巻きされていたはずの切り裂きジッパーが息も絶え絶えになりながらカッターを手に侵入してきた。ていうか、お前どうやって脱出した？
「……ちょ、お客様困ります！　子供達も見ているんです！　そのジッパーから覗いている粗品をしまってください！」
「問答無用！」
「きゃああああああ！？」
　次の瞬間、華露蘿の衣服は切り裂きジッパーの二本のカッターでエプロン以外の部分が剥ぎ取られてしまった。これが恐るべき寝子おっぱい島の変態超人の技術である！
（……エ、エプロンだけ無傷で残すとは。こやつ、できる……！？）
　などと、思った華露蘿は華露蘿で相当にどうかと思われる。
　他方、子供達は、
「おー、あの変態スゲー！」
「あのねーちゃんのおっぱいもスゲー！」
「もー、これだから男ってやーねー」
　と特に気にする様子もない。寝子おっぱい島の未来が真剣に危ぶまれる今日この頃である。
　と、そのとき。

「そこの変態待ていっ！」

　と、よく響くヒーロー然とした声が、店の中に響いた。
「む、どこのどいつだ！」
「……よ、よかった。警察の人か警備会社の人が――」
　そう思った華露蘿が愚かであった。

　　＊　＊　＊

　冴木竜司は名を問われた以上、名乗らねばならないと思った。
「応！　俺の名は冴木竜司！　ちょっとおっぱいと下着と幼女が好きなだけの、この島に住むごく普通の学生だ！」
「全然普通じゃないよ！　それただの人間として致命的なカミングアウトだよ！」
　竜司の名乗りに、店の従業員――豊田華露蘿は思わず素になって突っ込んでいた。
「ちっ！　僕の邪魔をする奴は服を裂かれて痴獄に落ちろっ！」
　切り裂きジッパーは竜司を振り返って、カッターを振り回す。
　だが、それよりも早く竜司は変身を開始している。
「させるかよ！　今こそ変身だ！　おっぱい！」
　竜司が叫んだその刹那、彼の身体は虹色に輝き、次の瞬間には虹色の褌一丁に蝶の仮面を身につけた紛うかたなき変態『ＲＹＵ☆ＺＩＮ』が姿を現していた。
「馬鹿な！　切り裂くところがマスクと褌しかないだと！？」
　切り裂きジッパーが驚きに目を見開くが、突っ込むべきところはそこではない。
「ならば、そのカラダを切り裂いてやる！」
　と、ジッパーがナイフを振りかざすと無数の斬撃がＲＹＵ☆ＺＩＮの身体を走り、そこかしこから血しぶきが上がる。
「ぐっ……。痛いじゃねぇか、なんか新しい性癖に目覚めたらどうしてくれる！？　だが、俺は負けん！　まゆ先輩、好きだぁぁぁ！　おっぱい！」
　説明しよう！　竜司はろっこん『性春パワー』により、愛する人の名前を叫ぶことでその力を極限まで高めることができるのだ。
　さらにこの世界では、おっぱいヒーローはおっぱいと叫ぶことで、パワーアップする。
　なので、竜司にとっては鬼に金棒の状況と言う事ができた。
「そう。俺こそがおっぱいをこよなく愛する男ＲＹＵ☆ＺＩＮ……。さあ、悪党よ。大人しくおっぱいのもとにひれ伏せ、おらぁ！」
　刹那、竜司のヤクザキックが切り裂きジッパーに炸裂した。
「ぐわーーー！？」
　哀れ、切り裂きジッパーは強化された竜司のキックを目の前に、為す術もなく吹っ飛ばされた。
「「「おー！」」」
　と、その一部始終を何かのイベントと勘違いして眺めていた子供達から拍手と歓声が上がった。
　華露蘿もまた、やや不本意ながらも、助けられたことには違いないので、竜司に礼を言う。
「あの、そこの変――じゃなかった、ＲＹＵ☆ＺＩＮさん、助けて頂いてありがとうございます」
　それに、竜司はにこやかに笑って、
「いや、俺はおっぱいヒーローとして当然のことをしたまでさ。さて、ついでと言ってはなんだがお姉さん。ここは一つ、ＲＹＵ☆ＺＩＮ印のプロ顔まけのおっぱいマッサージ（意味深）を味わってみては――」
「やっぱり出ていけ、変態！」
「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーっ！？」
　次の瞬間、華露蘿がどこからともなく取り出した板書用三角定規（の角の部分）の直撃をうけたＲＹＵ☆ＺＩＮはその名の通り、お空の星になっていた。
　かくして、商店街の文房具店にはおっぱいヒーローＲＹＵ☆ＺＩＮのおかげで（おかげで？）平和が戻った。
　だが、

「……って、僕の切り裂かれた服はどうなるのかな！？」

　豊田華露蘿の受難はまだあと少しだけ続くようだ。

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おっぱいヒーロー見参！

シナリオ

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