おっぱいヒーロー見参！｜リアクション

おっぱいヒーロー見参！

【お金がないなら銀行に行けばいいじゃない】

　そのまた同じ頃。旧市街。表参道商店街のどこかにある文房具店で。
「……最近、売上が芳しくないなぁ」
　豊田華露蘿は、いつものように店番をしていた。
「このままじゃ給料アップも期待できないし、なんとかしないとなぁ……」
　今月の売り上げを表計算ソフトで確認しながら、華露蘿はふぅと溜息を吐く。
　売上不振の原因はわかっている。最近、金に物を言わせて人気の『おっぱいシリーズ』の文房具を大量に入荷している大手に顧客が流れ始めているからだ。
「……まったく。何故、あんなのが売れる？」
　ぶつぶつ言いながら、華露蘿が製図用コンパスの検品を開始すると、程無くして店に新しい客が入ってきた。
「いらっしゃいま――」
　と、顔を上げて言いかけてから、華露蘿は三秒ぐらいその場で固まった。
『おい、そこの女。おっぱいを……じゃなかった、金を出せ。いや、やっぱりおっぱいも出せ』
　客は、フルフェイスメットにふんどし一丁の変態――銀行強盗チャリンジャーだった。
「……お客様、当店は文房具店ですので。お金でしたら銀行へどうぞ。あとうちは小さい子供来るのでちゃんと服を着てから来て下さい」
『アッハイ』
　冷たい目で一瞥をくれ、すぐに検品に戻る華露蘿に、チャリンジャーは取りつく島もなく、すごすごと店を出ていった。
「はいはい。また一昨日いらしてくださいね～」
　ひらひらと手を振りながら、華露蘿はコンパスの検品を続けていく。
（まったく。この忙しいのに、仕事の邪魔すんなし）
　ぶつくさと心の中で呟きながら華露蘿が作業を続けていると、また新たな客の気配があった。
「いらっしゃいませー」
　今度はまともそうな客なので、華露蘿はちゃんと笑顔で挨拶する。
　店を訪れたのは黒のパーカーを目深に被った小柄な女の子だった。
「……すまんが、ガムテープをくれんかの？」
「え？　あ、はい。いくつご用意しましょうか？」
「……これで、買えるだけ貰おうかの」
「え……？」
　少女の言葉に、華露蘿は大きく目を瞬かせた。

　　＊　＊　＊

　文房具店を後にしながら、黒兎都は店員の女のエプロン下にあった二つの脂肪の塊を思い出していた。
「……たゆん、滅ぶべし」
　ぽつりと呟きながら、都はこの日のために貯めたお金で買った大量のガムテープの入った買い物袋の取っ手をぎゅっと握りしめた。
　と、そのとき。
「ふはははは！　見つけたぞ、兄さんの仇！」
「は……？」
　都の目の前にカッターナイフを二本持ち、ズボンのチャックを全開にした変態が現れた。
（……いったいなんなのかの、こいつは？）
　都は呆然と目を瞬かせた。
「……仇とは何のことかの？　というか、君はいったいなんなのかの？」
「ふっ！　知れたこと！　僕は兄さんこと切り裂きチャックの双子の弟『切り裂きジッパー』だ！」
　切り裂きジッパーはキリッと決めポーズを取った。何を言っているのかわからなかったが、変態だと言うことはよくわかった。
「兄さんは言っていた！　小柄で黒髪でちっぱいな女の子にいじめられたと！　よくも兄さんをやってくれたな！　この僕が兄さん分までやりかえしてやる。倍返し――ぶぎゃ！？」
「……ごちゃごちゃうっさいし。あとちっぱい言うな」
「もごご！？　むぐぐ！？　むぐーーー！？」
　都は冷たい眼差しを向けながら、切り裂きジッパーをガムテープでグルグル巻きにしてぶち転がした。
「……うちは今忙しいんだからの。全てのたゆんとおっぱいヒーローをガムテープで簀巻きにするまで、うちは修羅と化す」
　都はぽつりと呟くと、ガムテで簀巻きにされたジッパーを放置して、また歩き出した。
　すでに目的地は決まっている。
　都がちらりと見た電気屋の店頭テレビには、今も街の北側と南側で荒くれものと戦うおっぱいヒーロー達の姿が、華々しいエンターテインメントの一環として、大々的に放映され続けていた。