巨大迷路と夢と巨人｜リアクション

巨大迷路と夢と巨人

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「疲れたぁ……」
　盛大な溜息をつきながら通路に仰向けに倒れるまもるを見て、水上が淡々と言う。
「もうギブアップですか？」
「ネバー！　ネバーギブアップさ。……読み終わって出口の位置もわかった。ただ、この文章量はちょっと尋常じゃねえよ」
　ポニテのおかげで期末は満点だったんだけどなぁ、とボヤくまもる。
「ポニテ……そう、ポニテがありゃ脱出までがんばれる！　さあ、エビバデポニテ！」
　女性陣に振るまもる。しかしその反応はスルーと冷淡なものであった。
「ナッシングポニテ……！　ここにはポニテがねえって言うのかよ！　よし、ここにはないから脱出だ、俺はポニテの元へ帰る！」
　ポニテへの情熱からの謎理論で動機付けが完了し、決意も新たにまもるは飛び起きる。次に溜息をつくのは周囲の番だった。
「ともあれ、これで脱出口の位置はわかったわ……」
　壁文から得た情報を統合して解答は得た。脱出への期待感で、桜たちの目が輝く。
「残念だが、そう簡単に逃げられそうにはないらしい」
　見張りに立っていた刀の声で、一転して皆の表情に緊張が走った。
「このタイミングで巨人が来ましたか、いちいち間が悪いですね。私と御剣さんが引きつけてる間に逃げて下さい」
　ぎこちなく頷き、八千穂と桜は走って行く。対して、すでにこちらに気付いて猛然と走る巨人の足音が聞こえて来た。まもるは“クモ男”で巨人の進行妨害を図った糸を進路に仕掛けて八千穂たちを追う。
「さあ、準備は良いか。殺されたくないなら今ならまだ逃げられるぞ」
「逃げ惑うのも殺されるのも性に合わないんですよ」
「なら、予定通りに」
「ええ、やりましょう！」
　迫る巨人を前に、二人は瞳に闘志を湛えながら身構える。
　作戦は単純だ。巨人が罠で動きが鈍ったところをニナが囮になり、刀が巨人の足を攻撃して機動力を奪う。それで比較的安全に逃走して合流、脱出口へと向かうことができる。
　唸り声と共に単眼の巨人が突撃してくる。進路上には二重の罠。まもるのクモ糸、そして刀が切断してローブ状にした蔦が、ニナのろっこん“錠前師の束縛”で壁と壁の間に張ってある。しかし――。
『――！！』
　蔦のロープに足を取られて前のめりに倒れたかと思われた巨人はしかし、地に両手を付けて前方転回した。クモ糸にかかるが、それも一瞬で棍棒によって引きちぎられてしまう。あの腕力に対して強度が足りていないのだ。
「新体操選手かよ！」
　早くも作戦の前提が崩壊したが、けれど二人の闘志は衰えていなかった。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ！」
　大声で巨人の注意を引きながら、愛車と共に疾走するのはニナだ。当然、そちらへ巨人の注意が向くが――罠が機能しなかった以上、囮役の危険性は尋常ではない。ロードバイクの進路上へと棍棒が振り下ろされる。それをニナはすんでのところで巧みな操縦によって躱す。
「専門は長距離なんですがね！」
　問題は、その隙を作るための安全性だった。隙は一瞬だけで良い
　――ガチンと、刀の頭のなかで撃鉄が落ちる。時間の流れが遅くなる。否、刀自身が“加速”しているのだ。
　彼は疾走した。その速度はこの世の理を遥かに超えて、瞬く間もなく巨人の足元へ向かい、そして彼はその手に握った日本刀で巨人の足の腱を斬りつける。持続性もコントロールも不安定ながら、ただただ早さだけが突き詰められた“加速”が終わったのは、ちょうどその時だった。
　肉を斬り裂く感触。――それが刀の手元に返ってくるはずだった。
「な――！？」
　心技体一致したその斬撃の結果は、硬音だった。日本刀の刃の切っ先だけが宙を舞う。――常識外れに、堅い皮膚だった。
「御剣さん！」
「っ――！」
　一瞬、その場で呆然としそうになった刀の頭にニナの言葉が響き渡る。はっと我に返った刀は即座に撃鉄を落として“加速”し、その場から離れた。巨人の左腕がその場を薙ぎ払ったのは、加速が終わったその一瞬後だった。
「とにかく逃げますよ！　さあ、走って！」

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