白亜と緑があった。
白亜は壁だ。どこまでも続く、複雑に折れ曲がった壁だ。その壁面には一面に奇怪な文章が刻まれている。壁の文章はある一定の周期で同じ内容が書かれているようで、少し歩けば全く同じ絵面を見つけられるだろう。
その壁には太く頑丈そうな蔦が生い茂っている。ところどころ壁の文章を覆い隠し、ところによっては床を埋め尽くしてさえいる。
鳥瞰すれば一瞬で、少し歩けばすぐさまに気付くことができるだろう。
ここは迷路だ。とんでもなく広大な。
「……夢か」
夢の世界だ。そう鈴金・令は明確に自覚できた。これはいわゆる明晰夢だろう、とも。その証拠に、寝間着で寝たはずの彼女は今、実家の神社の巫女服を着ているのだから。
ちり、ちりと服に付けた鈴を鳴らしながら、彼女は壁に近づく。
「英語、かな? かなり長文……。時間をかけて訳せばなんかわかりそうだけど……」
苦手なんだよね、英語。はあ、と令は吐息した。こんなことならもっと勉強しておけば良かった、とつぶやきながら。
ずしん、という重々しい音が背後から響いて来た。
「……和訳してるヒマもないかぁ」
背後を振り返って、令は冷や汗が背筋を伝うのを感じた。令の体長の二倍ほどもある巨人がそこにはいた。その目は赤く充血し、敵意が剥き出しの表情で荒々しい息をついている。手には成人ほどの大きさの、節くれだった木製の棍棒。
一も二もなく、令は逃げ出していた。あんなものをマトモに食らってはひとたまりも無いだろう。
「夢の中でも死ぬのは勘弁なんだから……!」
幸いここは入り組んでいる。うまく構造さえ掴めば撒けるかもしれない。そう踏んだ令は何度も角を折り曲がり、巨人を撒く。
しかし、どれだけ遠くまで行っても、息を潜めても、巨人は令を追ってくる。
「まるであたしの位置を知ってるみたい……」
蔦に手をかけ足をかけ、壁を乗り越えてもやって来る。しかし、じっとしている時だけは探すような素振りを見せていた。きっと、音に敏感に反応して、だからこの巨大な迷路の中にあってなおこちらを追跡できているのだろう。
軽業の心得さえあれば、壁を登って迷路の端まで行き、上から周囲を見渡せば辺の欠けている場所が出口だと気付けていただろう。
「そんな器用な真似ができれば良かったんだけどね……!」
出口へのヒントが書かれているかもしれないと考えて、令は英文を訳し始める。
壁越しに巨人の気配を感じた。そろそろここから離れるべきか。そう思い始めた時、壁に衝撃が走った。
「壊される……!?」
壁を打ち破って来る、そう思って構えるが、しかし二度目の衝撃は壁には来ない。ふと、令の立つ場所に影が差した。
「え……?」
影の方向、壁の上を見る。そこには壁から身を乗り出し、今、令へとその手に持った棍棒を振り下ろそうとする巨人の姿が――。
衝撃と激痛。夢の中にはあり得ない、あまりにもリアルな痛みの中で令は意識を手放した。
毎度お世話になっております、豚野郎でございます。ぶひぃ。
今回はわたくしの方から、
「巨大迷路から脱出しよう」
というコンセプトのシナリオを提供させて頂きます。
以下はメタ視点での情報提示となります。これらの情報はPCが「なんとなくだけどはっきりとわかっている、知っている」「おおよそこんな感じだろうと推理できている」こととして扱います。
【脱出方法:3つ】
1.出口を見つける
何らかの手段によって出口を探し当てることで、あなたは現実世界へと帰還できるでしょう。出口は迷路の外周上に存在します。
2.巨人を倒す
非常に強力な巨人を倒すことで、あなたたちは即座に現実世界へと帰還できるでしょう。
3.死ぬ
何らかの方法で死ぬことによって、あなたは即座に現実世界へと帰還できるでしょう。
【夢の世界について】
誰もがはっきりと理由なく「夢の世界」と理解できます。しかし、その感覚は現実のそれと変わりはありません。もちろん、痛覚も。
あなたは普段の格好で夢の世界に現れます。
武器になりそうなものや普段から常用している物など、思い入れの強い物なら持って来れているでしょう。アクションにご記入下さい。
【死亡について】
全体を通してアクションに解決方法がなかったり、あるいは解決するまでに余りに時間がかかる場合、そして巨人と1、2人の少人数で長時間の追走・短時間以上の戦闘を続けた場合、あなたはこの世界で死亡してしまうでしょう。
この夢の世界で死んでも、当然あなたは現実世界で死にません。夢の中ですから。
ただし朝から猛烈な虚脱感と気怠さに襲われてしまいます。まるで、誰かに自分の活力を抜き取られたように。
【巨人について】
棍棒を持った非常に強力な、体長3メートルほどの一つ目巨人です。1.5メートルほどの大きさの木製の棍棒を振り回して攻撃してきます。音に敏感で、息の音や服のズレる音などにも反応してあなたたちを追撃して来るでしょう。巨人はこの迷路の内側でしか活動できません。
この巨人の前では、いかなる武道に精通した者一人であってさえ数分の時間稼ぎにしかなりません。戦闘に向いたろっこんを使える者が数人連携した良いアクションを書くことで、ようやく倒せるでしょう。巨人討伐による脱出を図りたい場合、コメントページなどを利用して参加者たちで相談することを強くおすすめ致します。巨人は大振りな棍棒での攻撃が多いですが、ある程度の体術めいた行動も取ることができます。また、その攻撃は素早いです。このオークに一人や二人で挑みかかるのは、すなわち自殺行為と同意義です。
この巨人をどう足止めするかがこのシナリオの主眼となるでしょう。
巨人はより人数が多い、より近くにいる者から攻撃します。
【壁について】
巨人の攻撃をもってしても打ち破れない、白亜の壁です。壁には文章が刻まれています。詳細は「壁の文章について」をご参照下さい。
壁は4メートル程度。蔦を利用すれば乗り越えることができます。「強み・特技」に軽業などがあるあなたは、この壁の上を歩いていくことが可能でしょう。
【壁の文章について】
迷路の壁中に一定間隔で全く同じ内容が記された英文の壁の文章です。これを解読することによって、巨人の弱点、出口の場所、そしてこの迷路の秘密を知ることができます。
その具体的な内容については実際にリアクションが返って来るまで一切非公開であり、プレイヤーの皆さんにはどんな情報かはわからない状態でアクションを書いて貰います。
解読したキャラクターは読めたはずの内容に添ったそのキャラクターらしい行動をします。方針をご指定くだされば、マスター側でアドリブ描写の際に活用させて頂きます。
【蔦について】
太く、頑丈な蔦です。取り外したり千切って武器などにはできそうにもありません。ただし、ところどころ壁に伝った蔦を利用して、壁の上によじ登って壁の向こう側に行くことができます。
【GAについて】
歓迎致します。必ず【】でグループ名を明記した上でアクションをご提出下さい。
●最後に
長々としたゲームマスターコメントですが、以上となります。
皆様の楽しいアクションを心待ちにしております。ぶひぃ。