猫が降る日｜リアクション

猫が降る日

　夢呼・ステイシーは呆然としていたかった。
　雨が降る原理はわかる。
　空のはるか上空で氷の結晶が作られ、落下しながら溶けて水滴となって地上に降り注ぐ。
　雪が降る原理もわかる。
　基本は雨と一緒だ。
　氷の結晶が溶けて水滴となったものが雨なら、溶けずに地上まで届いたものが雪に変わる。
　今の時期ならものめずらしくも無い現象だ。
　もしも魚が雨と一緒に降ってきたなら、夢呼は小躍りしたに違いない。
　珍現象だけれど、海外では稀に見られる現象だ。
　でも。

「……猫が降ってくるって、どういうことなんだよオイ」

　現実逃避をしている場合じゃなかった。
　もう目前まで落下してきた猫を、全力で受け止める。
　ぼふっと両腕の中に落下した猫は、何とか無事だ。
　贅肉も筋肉もつかない華奢な腕が重みに悲鳴を上げたけれど、猫だけは無事だ。

「猫、こら引っかくな、すぐに下ろしてやるから……って、痛ってぇ！」

　命の恩人なのに、猫は腕の中から飛び降りざまに夢呼を引っかいて走り去った。

　くっそぅ、助けてやってるのにあんまりじゃないか？

　引っかかれた手をさすりつつ、ずれた眼鏡を押し上げる。

「あ？」

　ひゅー……んっ！

　落ちてくる。
　猫が。
　沢山。
　何匹も！

「いやいやまてまて、人命……じゃなくて猫命救助ー！！！」

　地面に叩きつけられる寸前だった猫を、下から救い上げるように抱き上げる。
　次に落ちて来た猫は、反対側の手でキャッチ！

「こら、そんな恨みがましそうな目で見るなっ、この高さなら怪我しないだろ？！」

　ぽーんと地面にほうり、別の猫をキャッチした夢呼を、投げられた猫たちが恨みがましくじーーーーーっと見つめている。
　心に穴が開きそうな恨みがましさだ。
　だがかまっている暇は無い。
　どんどん落ちてくるのだから！

　足を出そうとして、引っ込める。
　夢呼の細い脚じゃ、肉の弾力も何もなくて猫が怪我をしかねない！

「右？　いや左が先かっ？！　くっそ、もう、どうにでもなれっ！」

　次の瞬間、夢呼は地面を滑っていた。
　身を投げ出し、地面をスライディングしていく夢呼。
　その背中に、次々と猫が降ってくる。

　ぼふんぼふん、ぼふんぼふんっ！

　背中に何度も痛みが走ったけれど、夢呼は耐え切った。

　ぽふん♪

　最後の一匹が背中からバウンドして、夢呼が前に伸ばした両手のうえに落ちて来た。
　ちいこい、可愛い子猫だ。

　地面に這い付くばっている夢呼にウィンクすると、颯爽と去っていく子猫。

「あー……」

　起き上がろうとして、諦める。
　背中にまだ猫が乗っているのだ。
　まぁ、起きようと思えば起きれるのだが、その場合、猫を退かす事に。

「あー……服すげー汚れた……どーしよこれ」

　腕立て伏せするように軽く上半身を反らせると、コートが泥だらけなのがよくわかる。
　落ちそうになった猫が「ふしゃー！」っと背中で威嚇した。
　どうしようもない脱力感と、満足感が胸に湧き上がる。

「まぁ、何とかなるか」

　苦笑して、夢呼は猫が満足するまでその場に突っ伏した。

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