寝子島スペシャル！寝子島探検隊！人食いマンボウは実在した！｜リアクション

寝子島スペシャル！寝子島探検隊！人食いマンボウは実在した！

　貴族の風体をした男を、修は胡乱な目で見た。
　確かに品格、ふるまいは由緒正しい欧州のもの。
　正式な礼儀を、子供のころから叩き込まれた人間でないと、こうはいかない。
　だが、妙に崩れたところ、不穏なところがある。

（まあ、貴族なんてものは、どこかしら歪んでいるのかもしれないな）

　自嘲に似た笑いを漏らし、俊通に素早く目を走らせる。
　油断しない方がいい。修の合図に、俊通も頷く。

「ふっ……風に誘われるまま歩いていたら、人気のある場所にたどり着くとは……。
　やはり、俺様の運は強い――」

　胸を張る男。
　一人山中で秘密の訓練をしていたら、道に迷ってしまったことは忘れた。

　このあたりで、この新たな登場人物の横顔に迫ろう。
　嘉月兔ネヴィア。
　堂々の変態である。

　とある欧州の名家に彼は生まれた。
　産湯を浸かったその日から、彼の帝王学の日々は始まった。
　貴族のふるまい、生き方、気品。
　容赦ない叱責と、鞭。
　時代錯誤で、あまりにも歪んだ教育は、彼の人格形成を思う様歪めた。
　
（――馬鹿者が）
（――何度、言ったらわかるのだ？）

　高慢と偏見。
　選民思想と、根拠のない全能感。
　サディズムに満ち溢れた、貴族のデフォルメのような人格。

　だが、それは表向きのこと。
　彼の本質は、マゾヒストである。
　叱責と罵倒が日常と化した日々の中では、彼はそれを快楽として受け止めるほかはなかったのだ。
　
　他人に対し、高慢に振舞うことで、嫌われる。
　そうして投げつけられる、悪意と非難。
　それこそが、彼がもっとも望むものだった。

　そこまで悲惨な生を授かったのなら、もっと屈折してもよかったのだが、これは彼ももっとも残念な点というべきか、それともほぼ唯一の美質というべきか、ともかく彼は能天気だった。
　アーパーであった。
　ご機嫌であった。
　
「探検隊か……」
　クルーから事情を聴きだしたネヴィア、にやりと笑う。
「恐怖の水域、寝子島沖に恐怖の毒サンマは存在した、だと？
　面白い……この俺がいればもう安心だ」
　すっくと立ち、戦闘に立って歩き出すネヴィア。
「さあ、冒険を始めよう」

　目くばせしてくる豪とみゆき、碧南に、修は俊通と素早く打ち合わせ。
「ＯＫ」のサインを出す。
　見た目的に楽しいのなら、テレビとしては捨てられない。
　いざとなれば、なんとかすればいい。

　それよりも、問題は山積みだ。

「ほーん、寝子島探検隊ね！」
　興味深そうな声を上げる円。
「名誉隊員だよ！」
　嬉しそうに声をあげるののこ。
「テレビか……ある程度は、裏を取ってきてるってことだね。期待できるよこれは！」
　かつて月面人類着陸の嘘を見破ったドキュメンタリーを放送した、テレビというメディア。
　真実に迫る真摯なテレビマンの姿は、胸を打たれるものがある。
「へえ、実在したんだ……！」
「知ってるの？　毒サンマとか、人食いマンボウとか」
「遺伝子異常種って説が強いけど、ボクは古代人が交配した説を推すよ！
　ゲノム操作による、守護者の創出だね！」
「うん！」
　さっぱりわからないけど、とりあえず快活にうなずいてみた。
「よし、ボクもついていくよ！」
「わーい！」
　両手を挙げるののこ。
「にゃーくんよかったね！　またレポートが増えるよ！」
　円の呼びかけに、にゃーにゃーと答えるにゃーくん。
　意味は解らぬが、ご主人様が陽気なのが、とにかくうれしいのだ。

「おーい！」
　
　都合二名増えた探検隊、いよいよ本格的に密林に挑む。

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