【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ｜リアクション

【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ

「あら……？」
　恵御納理沙は思わず声を漏らした。自分自身の状況を全く把握出来なかったからである。

（ここは……酒場ね。ドイツにいた頃、こんな酒場があったわ。懐かしいわ～……）
　目の前に広がる倉庫の様なホールに、理沙は考える。突然の酒場にも驚きだが、自分の服装も驚きだった。
　いつの間にか変わっていた理沙の服装は。
　胸元のリボンがついた、薄水色のミニワンピース。そしてロングブーツに手には箒。その首には青いマフラー、髪型はポニーテール。
　完全な魔法少女である。……理沙は主婦だが。

　色々不思議ではあったが、天然な理沙。あまり気にせず周りを見回すと、酒場の中に可愛らしい女の子がいることに気が付いた。
　理沙は彼女に話しかけてみた。
「初めまして、お嬢ちゃん。お名前、何て言うのかしら～？」
　金から群青に変わる長い髪のその子は理沙に言った。
「ステラ？　ステラはステラっていうのよ！　ステラ・ラ・トルレ！」
　その声に理沙はあらと気が付いた。ここに来る直前に聞いた声とステラのそれがよく似ていたからだ。
「……もしかして、ここに呼んでくれたのはステラちゃん？」
　理沙の問いにステラの目が輝いた。
「おねーさん、ステラの声聞こえたのー？　そうなのー！　だってみんな竜退治の支度で忙しいんだもん！　おねーさんのお名前はなんていうのー？」
　あらしまったと理沙は口に手を当てる。人に名前を聞いておいて自分が名乗っていなかったようだ。理沙は苦笑した。
「私は理沙（リーシャ）よ、よろしくね～！」

　仲良くなった理沙とステラは同じテーブルに座り、色々な話をした。子供らしく話すステラに、理沙はにこにことのんびり相づちを打ちながら聞いていたが、ふとステラに尋ねた。
「ステラちゃん、ご家族は？」
　ステラはきょとんとして首を傾げた。
「？　ステラはステラなのよ？」
「うん、そうよね～。それで、ステラちゃんのお母さんは？　ここに１人でいて心配されてないかしら？」
「ステラは星幽塔なの。心配ご無用なの！」
「……ええっと……？」
　全く事情が飲み込めない理沙は混乱する。ステラも上手く説明ができず、とうとう癇癪を起こして泣き出してしまった。
「ステラはステラなのよ～～～！」
　ステラの目からポロポロと金平糖の涙が零れ落ちる。理沙は驚いたが、泣き続けるステラをひょいっと抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。
「ごめんね、ごめんなさいね、ステラちゃん」
　優しく言ってステラの頭を撫でてやる。ステラはしばらくしゃくり上げていたが、少し経つと落ち着いて、理沙を見上げニコリと笑った。
「リーシャのお膝、気持ちいいのー」
「そう、良かったわ～」
　そう言って微笑み合う２人はまるで親子のようだ。理沙は小さいステラを見ながら、ふと自分の娘恵御納夏朝が小さかった頃の事を思い出していた。

　その後は理沙は持っていた手作りのお菓子を周囲の客に配ったりと、和気あいあいと酒場の空気を楽しむ。そして少し名残惜しく感じながらも理沙はステラと別れ、酒場を出た。
　すると何だか外が騒がしい。聞けば竜退治の兵士達が大通りを通ると言う。
「やっぱり噂は本当だったんだな」
と人々が口々に言うのが理沙の耳に聞こえた。
　理沙も周囲の群衆に交じって通りを見る。と、彼女の目が見開かれた。
「夏朝……？」
　―――まさか、そんな。
　確認しようと理沙は目を凝らしたが、彼女が見たその顔はすぐに人垣に隠れてしまった。
　兵士の集団が行ってしまうと、あれだけいた群衆もいつの間にか散り散りになり、また元のようながやがやした城下町の姿になっていた。

　１人立ち尽くしていた理沙は小さく、けれどもしっかりと呟いた。
「大丈夫よ。……寝子島の皆は、強いもの～！」