【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ｜リアクション

【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ

　『猫島亭』が開業準備に追われていた頃、同じ猫島でも猫島寝太郎はいつもの如く、異世界でもぼーっとしていた。

　寝子高の制服に袢纏をひっかけ。頭には猫のぬいぐるみ。どうやらこのぬいぐるみに星の力である盗人の光が宿っているようだ。実は彼は突然の異世界の様子に途方に暮れていたのだが、まあ遠目にはいつも寝子島で見かける彼であった。
　しかしサジタリオでは見慣れない格好の寝太郎は明らかに浮いていた。と、勇気ある子供が寝太郎に話しかけてきた。
「お兄さん、変な格好だなー。どっから来たの？」
　寝太郎は男の子にのんびりと言った。
「う～ん、寝子島から来た旅人、かなぁ……名前はネタローだよ。君の名前は？」
「俺？　マルコ！」
　マルコはにっと笑った。

　マルコと友達になった寝太郎は、ようやく今自分がいる街の事を理解することが出来た。街がこんなに暗い理由、領主フランチェスカが黒竜退治に向かうかもしれないという噂が流れていること。マルコは色々教えてくれた。
　マルコが街を案内してくれると言うので、寝太郎は彼と一緒に大通りを見て回る。そしてとある細工物屋で足を止めた。
「へぇ、竜の根付けかぁ」
　それは象牙風の竜を象った細工だった。心惹かれた寝太郎は自分の家の鍵を取り出す。付けたら似合うだろうかと思ってのことだったが、取り出された鍵を見た店主が目を丸くした。
「これはなんだ……？！」
「え？」
　店主は寝太郎の鍵に付いていた、サンマさんストラップに目が釘付けになっていた。

　この世界ではストラップの素材や技術は（そして恐らくサンマさん自体も）異質な物だったらしい。店主はストラップを売って欲しいと寝太郎に懇願し、沢山のお金と交換してくれ、最初に見ていた根付けもプレゼントしてくれた。
　サンマさんのお陰で懐が温かくなった寝太郎は、マルコと一緒に屋台を回った。揚げ芋や蜜がたっぷりかかったパン。それらはびっくりするくらい美味しく、寝太郎とマルコはお喋りしながら食べ歩きを楽しんだ。

　屋台のお礼にと今度はマルコが酒場に連れて行ってくれた。酒場の喧噪の中戸惑う寝太郎に、マルコは笑った。
「今黒竜討伐があるかもってんで、色々サービスされてんだ！　ほら、あんな小さな子までいるだろ？」
　マルコが指さす方を見ると。金から群青に変わる長い髪の女の子が、客達と楽しそうに酒を酌み交わしていた。

「君、大丈夫かい？」
　寝太郎は思わず後ろから声をかけた。すると女の子が振り向いた。
「ステラ？　ステラは大丈夫なのよ～！」
　少し頬を染め、確かに女の子……ステラは楽しそうだ。他の客も特に子供が酒場にいて飲食することを不思議と思ってはいなそうだった。
「ステラはね～、寂しいの。だってみんな竜退治の準備ばっかり～！」
　そう言うとステラは突然寝太郎の前でぽろぽろと泣き始めた。と、その涙が途端に金平糖に変わり、カツンカツンとテーブルの上に散らばった。
「え？　……金平糖？」
　寝太郎は驚いてポケットを探る。そしてステラの前に寝子島から持って来ていた金平糖の袋を差し出した。
「わあ、ステラの涙なのー！　それも美味しいの？」
　不思議そうにするステラに、寝太郎は金平糖を分けてやる。カリッと囓ったステラの顔に笑みが広がった。
「甘くて美味し～い！」
「え、それ美味いのか？　ネタロー、俺にもくれよ！」
　マルコを始め、他の客も口々に金平糖を欲しがる。思いもかけず大好評となった寝太郎の金平糖は、みんなを笑顔にしたのだった。

　夜の鐘が鳴ったのを機に、寝太郎は酒場を出てマルコの家に行くことになった。寝太郎の泊まる所や仕事を心配したマルコが、親に紹介してくれると言うのだ。
　夜の鐘が鳴ったと言っても、酒場に入る前と同じように街は相変わらず暗い。
　寝太郎はマルコと歩きながら、この不思議な世界でこれから何が起きるかとわくわくしてくるのだった。