【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　花の色は　移りにけりな　いたづらに　わが身世にふる　ながめせしまに

　小野小町による有名な歌だ。探検部チームはもちろん、修を先頭にすぐさま反応するが―――
　手元にあった札を、雛ががっちりと守り取った。スピード勝負の相手の動きに合わせて反応し、あとは運に賭ける。その運がさえ始めてきた。
「時の流れの無常さがいいよね！」

　ついに、読まれる歌が99枚目になった。場にある札は、それぞれの陣に一枚ずつ。二つに一つの運命戦となる―――

　あらざらむ　この世のほかの　思ひ出に　今ひとたびの　あふこともがな

　情熱の女流歌人・和泉式部の歌は、雛の手元に置かれていた。チーム3人で、きっちりと確保。運を味方につけた演劇部チームが、1枚差という僅差で勝利した。

「楽しかったぜ、ありがとな！」
　紙一重で敗れはしたが、豪は笑顔で相手チームに挨拶した。
「皆お疲れ。今日の打ち上げは、焼肉だな」
「今度は札じゃなくカルビの取り合いなのだ？」
　全力を出し切った探検部チームの表情は、3人とも晴れやかだった。

　水上桜は、いつの間にか寝子高の校門前に来ていた。入試を来月に控えて、プレッシャーはいよいよ強まってきている。大事な時期なのだが、プレッシャーからどうしても受験勉強に身が入らず、どうしようと気持ちばかりが焦ってきていた。
「何をやってもダメなものはダメ！」
　家での勉強は中断し、気分転換に外に出ることにした。そうやって適当に街中を歩いていると、無意識に足は寝子高まで向いていたのだ。
　校門のところには、「かるた大会」の看板があった。
「そういえば、今日はかるた大会だっけ」
　見物して気分転換になればいいかな、と思い、桜は校内へ足を踏み入れた。
　来月には、受験のためにこの門をくぐることになる。……今年の春には、ここを新入生としてくぐることができるんだろうか？どうしても不安な気持ちは拭えない。
　大会の会場はどこだろう。周囲を見渡していると、大柄な男子生徒に声をかけられた。
「かるた大会の見学かい？武道場はこっちだよ」
　いかつい体格をしているが、笑顔は優しそうだった。大会のスタッフとして働いている結城永遠だった。永遠が先に立って、桜を会場まで誘導する。
「中学生かい？」
「はい、実は来月ここを受験する予定で……」
　永遠の言葉が優しげだったので、桜も少し安心したように話し出した。
「成績自体は合格ラインだけど、私割と本番に弱いところがあるからちょっと自信がなくて……特に社会科が苦手だから、そこで躓くんじゃないかと思うと不安で不安で……」
　元々自分を偽れないタイプの彼女は、つい愚痴っぽくなった。永遠は、歩きながら黙って話を聞いていたが、最後にはこう言って微笑した。
「合格ラインの実力があるなら、大丈夫だよ」