『向日葵』、雪遊び｜リアクション

『向日葵』、雪遊び

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刀が、メニューとにらめっこをしている。
何があるかな～、と眺める彼の目にとまったのは、『冬メニュー　水ようかん』の文字。
こういうのがあるなら、頼むしかない。即決して、日向に声をかけることにした。
「水ようかん一つ下さい、飲み物はほうじ茶で！」
待つこと、少し。
「お待たせしました。水ようかんとほうじ茶です。お茶、お熱いですので気をつけてくださいね？」
丸皿に乗った水ようかん（大）と、湯気の立つほうじ茶の湯呑みが刀の前に置かれた。
「はい、ありがとうございます！」
日向に礼をいい、早速手を合わせていただきます。竹製のスプーンを手にとって、水ようかんを口に運ぶ。
あずきの風味が口の中いっぱいに広がって、甘くさわやかな喉ごしが通り過ぎていく。
「うん、美味い」
誰にというわけでもなく頷きながら、パクパクと水ようかんを食べ進める。
そのうちに、口の中が甘くなってきて。刀はスプーンを止め、ほうじ茶に口をつける。
飲みやすい程度に温度が下がった、けれどもまだまだ熱いほうじ茶の香ばしさが、甘さに代わって口の中に広がる。
ゆすぐようにゆっくりと飲み干して、口の中の甘みをお掃除。甘みが消えたら、再度水ようかんに手をのばす。
（この流れが気持ちいいんだよな）
心のなかでひとりごち、水ようかんをまた一口、口へ運んだ。

◆
「こんなところに店があったんだな」
赫乃に連れられる格好で『向日葵』へとやってきた岳人は、珍しいものでも見る様子で声をもらした。
「夏、は。ひまわり畑が、窓から、見えて……綺麗、なんですよ」
と赫乃。
もっとも、今は窓の向うに見えるのは、一面の銀世界だ。とはいえ、これもこれで綺麗なもので。窓から眺めていたいから、と岳人は窓際の席を選んだのだった。
さて、と。メニューを眺め、二人は注文を決める。
「緑茶と、そうだな……ぬれせんべいのうす口を。緋紅朱さんは？」
「水ようかん、と……緑茶を……」
注文を書きつけた日向が、店の奥の方へと消えていく。
頼んだ品が来るのを待つうちに、「年始に、」と赫乃が口を開いた。
「年始に？」
聞いてるよ、との意思表示も込めて。短く、そして赫乃の言葉を遮らないようにして、岳人は相槌を打った。静かに、続く言葉を待つ。
「お弟子さんも、交えて、盛大な、お祝いを、したんです。……皆、楽しそう、でした」
語る赫乃の様子も、どこか楽しげで。本当に盛大で、楽しいお祝いだったのだろう。
「良い正月だったのだな」
こくり、と。赫乃ははにかみ混じりに、小さく頷いた。
と、そこで注文の品が運ばれてきた。湯気の立つ湯呑みが二つに、ぬれせんべいと水ようかんのお皿が一つずつ。
示し合わせたわけでもないけれど、二人がまず手をのばしたのは緑茶だった。
外を歩いてきた体には、緑茶の温かさがよく沁みる。ほう、と暖かな息をどちらからともなくこぼした。
「来月、に、展示会が、あって」
「花の、かい？」
「はい。……私の薔薇を、使った、展示も、出るんです。ちょっと、ドキドキ、しちゃう、かな」
岳人の視線が、空いた先に置かれた花に向く。なるほど、それでだったのだろうか。
「確かにそれはドキドキしてしまうな。だが、」
「……？」
きょと、と。見上げる赤い瞳に、岳人はふっと笑ってみせる。
「緋紅朱さんなら、きっとうまくやれると思う」
「……」
照れ隠しのように、赫乃は水ようかんを口へと運ぶ。その様子は、なんだか小動物を見ているみたいで微笑ましかった。