空飛ぶピラニア｜リアクション

空飛ぶピラニア

【９】

　ｍｉａｏの家具売り場。
　床や家具の上に置かれたランタンの光が、暗いフロアをほのかに照らしている。
　聞こえるのは風と雨音だけ、フロアの闇は静かにその音を吸い込んでいた。
「これだけ家具と道具が揃っていれば、ここで生活ができるな」
　確保した道具を点検しながら、修は呟いた。
「このベットふかふか。うちの布団に負けず劣らずだよぉ。よく眠れそう……むにゃむにゃ」
「さっそく寝るな、猫島。起きろ、風邪ひくぞ」
「あ、ごめんごめん、御剣君。安心しちゃってつい」
　眠い目をこすりながら、寝太郎は言う。
「けど、ここに来て正解だったな。着替えもあったし、濡れ鼠のままでいないですんだよ」
「そうだね。あ、女子も着替えが終わったみたい。戻ってきたよ」
「ねー、ドライヤー使っていいですー？　髪を乾かしたくてー」
　長い髪をタオルで拭きながら梢が尋ねると、修が答えた。
「構わないよ。ただ、発電機の電力がどれだけ持つかわからないから、節約でね」
「……これ、釣竿？」
　修が点検していた道具を、興味深そうにさゆるが見つめる。
「ああ、いろいろ確保してきたんだ。食料確保にも役立つだろ？」
「それって、ピラニアをとるってこと？」
　なんだかうれしそうに円が言う。
「ああ、タンパク質の摂取は人間にとって必要不可欠だからな。それにあれは元々食用魚だ」
「わぁ、楽しみだなぁ。お刺身お刺身」
　ここにも食料は残されているが、どれだけ持つかわからない。
　長期的なサバイバル生活を想定すると、恒常的に食料を確保する手段は必要……
　と修は考えていた。
「新井が生きていれば、冷凍保存もできたんだけどな……」
「すばる……」
「あ、ブリジット……。悪い、新井の話なんかして……」
「ううん、いいの。きっと、すばるもお星様になって、私たちを見守ってくれてるわ……！」
　ぐっと涙をこらえ、天井を仰ぐ。
「でも、お魚はともかく、野菜はあるだけしかないですよ？」
「ああ、それについても考えてあるよ、稲井」
　そう言って、先ほど園芸コーナーで見つけた種を見せる。
「売り場の生野菜が無くなる頃にはカイワレ程度ならプランターで育つ。一ヶ月後にはレタスも育つよ」
「そうなんですね。じゃあ、ここにずっと住めそうですね」
「はは、そうならないで欲しいけどな」
　とそのとき、ぎゅるるるるる〜と腹の音が響いた。
「ははっ、なんだよ、今の？　北原か？」
「ち、違うよ、刀くん！　……おなかはすいてるけど」
「それはまぁ俺もそうだな。よし、なんか食べようぜ。食料品売り場に行ってくるわ」
「あ、ボクも手伝うよ、刀くん」
　円は刀に駆け寄ると、ふと思い出したように。
「……そうだ。ねぇ、ごはんを食べたら、映画を見ない？」
「なんだ、覚えてたのか」
　肩をすくめながら言う刀に、円はほほを膨らませる。
「当たり前でしょ。そのためにここまで来たんだから」
　そう言って、ＤＶＤを取り出すと、ブリジットが目を輝かせた。
「わっ、映画って『ニャークネード３』？　それなんか見たい気分だったんだー」
「ほんと？　やったぁ、この映画の良さがわかる人がいてうれしいな！」
　和気藹々とした空気に、修は静かに微笑む。
「そうだな。そうやって気を紛らわすこともこの状況じゃ大事かもしれないな」
「うん。映画があれば、助けが来るまで時間も潰せそうだね」
　修の横でみゆきも、ふふと笑った。

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