空飛ぶピラニア｜リアクション

空飛ぶピラニア

【８】

「うわ、思った以上に風がつよ……ピラニアいたっ！」
　着ぐるみの頭をさすりながら、すばるは顔を上げる。
「かみつかれなくても当たっただけでいたいよ、びたーんって」
「着ぐるみがあって良かったわね」
「うん、あとブリジットさんの装甲増量キャンペーンも成功だったよ」
　商店街からここまで、長い距離を移動してきたが、ノーダメージで来ることができた。
　着ぐるみはさすがに食いつかれてボロボロだが、中の人たちはいたって元気。
　さすがのアマゾンの暴れん坊たちも、完全防備のふたりには手も足も出ないらしい。
　まあ、そもそもピラニアには手も足もないけど。
　長かった台風の日の冒険もようやく終盤。
　ｍｉａｏの入り口は目の前だ。
「着ぐるみが壊される前に到着できてよかったわ」
「うん、本当に。……おっと！」
　指先に装着したちくわを後方上空に向ける。
「食らえ、ろっこん＜ちくわ☆ガン＞！！」
　ちくわから発車された冷凍ビームが、新鮮な状態を保ったままピラニアを凍らせる。
　これでお料理する際も、解凍すれば美味しいピラニアが。
　いや、まあそんなことはどうでもいいか。
　どうやらｍｉａｏ一番乗りは、すばるとブリジットのようだ。
　すばるは手を差し伸べて、ブリジットをボードから下ろす。
「ありがとう、すばる」
「どういたしまして。……あ、誰か来るよ」
「おまえたちも無事だったんだな」
　続いて到着したのは、刀と円、そして寝太郎だった。
　背負っていた円を下ろし、一息。それから、刀は肩を鳴らす。
「はぁー、重かっ……」
　しゅっと円のフライパンが刀の鼻先に突きつけられる。
「何？」
「な、なんでもない……です」
「ごめんね、御剣君。おんぶ、交代してあげられたらよかったんだけど、あんまり体力ないから」
「気にしなくていいよ、猫島は。おかげで、ちょっとした修行になったし」
「あ、見て。ボート」
　そこへ、なだれ込むように修とみゆき、そして、さゆるといおねと梢のボートがやってきた。
　チェーンソーを構えながら飛び降りたみゆきに、先に来ていたみんなはぎょっとする。
「あ、危ないよ！」
「えっ、あ、ごめん！」
　すばるの言葉に、慌ててみゆきはチェーンソーを止める。
「けど、これだけの人が取り残されてたのね。みんな、無事で良かっ……」
「話はあと。早く中に入って」
　ブリジットの声を遮るように、早口で言うさゆる。
　ふとボートの来た方向を見ると、ピラニアの大群が押し寄せてくるのが見えた。
「なるほど。これはまずいね。……みんな、中へ。ボクが食い止めるよ」
　そう言うと、すばるはちくわを向けた。
「大丈夫、ちくわを信じてくれていい。……距離よし、方角よし、風向きよし、行くよ。＜ちくわ☆ガン＞！！」
　すばるの放った冷凍ビームが、水面ごとピラニアを凍らせる。
　威力がないので、このまま凍結させることは無理だが、足止めくらいにはなる。
「すばるも早く！」
「うん、今行くよ、ブリジットさ……ん？　はうあっ！？」
　振り返った瞬間、すばるはすってんころりん足を滑らせた。
　濡れた地面にからめとられるように、彼は地面をつるつると滑っていく。
「うわあああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！！！！」
「すばる！！」
　滑った先は、蓋の空いたマンホール。
　貯めた水を一気に流したときの洗面台のように、ぐるぐると水が渦を巻いて吸い込まれていっている。
「ライヘンバッハの滝がぁーーーー！！！」
　彼はそこにおさまるべき定めだったのかもしれない。
　もしかすると、生まれたときから。
　そう思わせるかのごとく、すばるはちゅぽんと綺麗にマンホールに吸い込まれていった。
「すばるーーーーーーー！！！！」

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