ある日の出来事。-1月その2-｜リアクション

ある日の出来事。-1月その2-

　今日は、せっかくの休日だ。
　降って湧いた休日でもない、前もってわかっていた休みの日。
　けれど、皇祁璃宇には予定がなかった。まだ転入してきて間もないこの時期、友達がいなかったのだ。
　しかし天気もよくお出かけ日和のこの日を家で過ごすのはもったいない。
　そこで璃宇が思いついたのは、シーサイドタウンにあるシーサイドアウトレットに行くことだった。
　お気に入りの服を着て、メイクもバッチリ整える。髪型もおかしくないかチェックをしたら、完璧だ。
　道行く人も振り返る出来栄えだったが、知らぬ土地ではそれも少し居心地が悪い。
　気を紛らわせるために、今日は何を買おうか、と考えることにした。
（えーと……アウトレットでは、まだ初売りセールが行われているんだよね……）
　クローゼットの中身を頭の中に広げ、必要な衣類が何かを検討する。
（あ、スカート。スカート欲しいかも。可愛いやつ。セクシーなタイトスカートもいいけど、それはこの間買ったし……）
　そう考えている間はウキウキと気分が上がったものの、いざシーサイドアウトレットに着くと肩身が狭いことをより一層知らしめられた。
　璃宇は、いわゆる女装子だ。
　顔立ちだけ見れば、可愛らしいうえパーツはどれも整っていて、女装姿も似合うだろう。
　けれど、体格がそれを許さなかった。
　身長185cm、体重74kgの筋肉質。
（う、浮いちゃうよねぇ～！　自分でもわかってる……！　うう、視線が痛い……）
　特に家族連れの、「ママー、あの人……」という声にはビクビクしっぱなしだ。
「あの……？」
　そんな璃宇に、声をかけてくれた人がいた。
「なんだか具合が悪そうですけど……大丈夫ですか？」
　それが御幸との初対面だった。

　広場のベンチで、二人はポツリポツリと話をする。
　御幸は聞き上手で、璃宇はいつの間にか今日ここに至るまでの経緯や、ここに来てからの想いまで打ち明けていた。
「そっか～、それで買い物に来たけど、肩身の狭い思いをしていた、と」
「うん……」
「それはよくないよ！」
「え？」
「璃宇ちゃんはもっと胸を張ってもいいと思うんだ。きちんとメイクだってして、コーディネートもバッチリで、人様に見られてもいいように意識してる。……まあ、背が高かったりして最初は驚いちゃったけど、それも含めて璃宇ちゃんのいいとこなんだと私は勝手に思ったよ」
「御幸……」
「一人でいるのが寂しいなら、私と一緒に見て回ろう？　私、時間あるからさ。璃宇ちゃんに似合うスカート、見繕うよ！」
　そう言って御幸は立ち上がり、璃宇へと手を伸ばす。
「行こう！」

　御幸が選んでくれたスカートは、璃宇が望んでいたような、素敵で可愛いものだった。
「買い物でこんなに満足したのっていつぶりだろう……！」
　心底そう思い、ついつい言葉に出してしまうと、御幸は嬉しそうに「よかった！」と微笑んだ。
「一度きりの人生なんだし、楽しまなきゃ！　璃宇ちゃんには、それをする資格があるんだから。……ううん、資格のない人なんて、いないんだよ」
「うん……なんだか元気でた。ありがとね」
「いえいえ、こちらこそ！　璃宇ちゃんのお眼鏡にかなうものを選べてよかったよ。帰りは一人で大丈夫？」
「大丈夫だよ。来る時だって一人だったし、今は御幸からもらった元気もあるから」
「あはは。お役に立てたならよかった」
　それじゃあ私はもう少し見て回るから、と言って去っていく御幸に、璃宇は手を振る。
　また逢えたらいいな、なんて思いながら。