ある日の出来事。-1月-｜リアクション

ある日の出来事。-1月-

　三時限目の終わり頃になって、阿寒湖まりもはようやく登校してきた。
　というのも、昨日の夜、新しい曲の練習に没頭しすぎて寝坊してしまったからだ。
　それにしてもこんな時間まで寝るとは思わなかった。急がねばならないのに、こんな時に限って昨夜積もった雪のせいで自転車にも乗れない。
　やっとのことで学校に到着すると、中庭から何か声が聞こえるではないか。しかも、聞き覚えのある声だ。愛らしい声と、憎らしい声。この声の主にピンときたまりもは、行き先を中庭に変更する。
　すると、やはりそこには御幸たちがいた。どうやら雪合戦をしていたようだ。御幸は疲れたのか、雪の積もっていない場所に座っている。
「御幸ー！」
「あれっ、まりもちゃん！？　どうしてここに？」
「寝坊！」
「威張って言うことじゃなーい！　ってサボってる私が言えることでもなーい」
　軽快なやり取りにひとしきり笑い合い、まりもは御幸の隣に腰を下ろす。
「って寒っ地べたやばっ」
「雪の日だからねー。ホッカイロあるよ、使う？」
「使う！　御幸天使！」
「ふふふー、そうでしょうそうでしょう」
　御幸からもらったホッカイロを揉みながら、まりもは荷物を濡れない場所へ置き、「そういえばこないだキャットロードでさー」と見かけた可愛い服の話を振った。
「へえ、そのデザインならまりもちゃんに似合いそうだね」
「やっぱそう思う？　でも一人じゃ決めきれなくてさぁ～。今日の放課後、御幸付き合ってくれない？」
「いいよー、予定もないし。私も服見たかったんだよね」
「あと知ってる？　最近オープンしたカフェ！　すっごいケーキが美味しいって噂なんだよ！」
「へえ！　それはぜひとも行ってみたいね！」
「御幸が好きなパフェもメニューにあるって。しかもそれもまた絶品とのこと」
「マジで！」
「マジで！　このまりも様のリサーチ力をナメちゃいけない！」
「ありがとう！　いつか行こうね！」
　そんな女子高生らしい話で盛り上がり、ホッカイロが暖かくなってきた頃である。
「あ、で、気になってたことがあるんだけど」
　まりもは御幸の様子を窺いながら、切り出した。
「ぶっちゃけ二人のどっちがタイプなのよ？」
「へ？」
　御幸は、本気でわけがわからない、というような顔をしている。
　おや、と思ったが、まりもは言葉を続けた。
「またまた～とぼけちゃって！　日向と清十郎のどっちがタイプなのって話！」
　学校に入学してから、もう一年近くが経とうとしている。
　その間に御幸たちと仲良くなったまりもだが、これだけは気がかりだったのだ。
　何せこの三人はだいたいいつも一緒にいる。そして、御幸には好きな相手がいるという噂もある。
　とすれば……
「どっち？　ねえねえ！」
「どっちでもないよ～、二人とも友達だって！」
「ホントにぃ？　清十郎のこと、せーじって呼んだり仲良さそうじゃん！」
「それは中学からの付き合いだからであって！　好きなのはもっと違うタイプの人で……」
「え、なになに、聞かせてよ。どんな人？」
「んーとね、図書委員の――」
　御幸がそこまで言いかけた時だった。
　バシィ、と勢いよく雪玉がまりもの顔面に向かって飛んできたのは。
「ったーい！　何すんのよコラー！！」
「っせーよいつまで話してんだよおれ一人で上村相手にしてるとかつまんなすぎんだろ！　早く混ざれよガヤ！」
「誰がガヤだチビ！」
「黙れチビ！」
「チビのくせにチビって言うなー！」
「おまえが言うかよばーか！」
「まりもちゃんこそ、菱谷くんと仲良しに見えるけどなあ」
　と、ふと呟かれた御幸の言葉に、
「「どこが！！」」
　とハモって答えてしまう二人であった。
　なお雪合戦は、御幸＆日向VSまりも＆清十郎となり、いい勝負を三時限目終了まで繰り広げたと言う。

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