九夜山ミステリー・凍り付いた山荘の悲劇～犯人はフジコ～｜リアクション

九夜山ミステリー・凍り付いた山荘の悲劇～犯人はフジコ～

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「台本の後半も確認するか」
　自室に戻った悠月はベッドに寝転がると、枕元におかれていた冊子を手に取った。
「さって、俺の死因は……」

獅子目悠月の死因：とてつもなくフジコホールド　真正面から力強く抱きしめられて悠月は――

「ぞわっ！？」
　悠月は反射的に台本を投げ捨てた。
「『とてつもなくフジコホールド』！？　わけわかんねー。しかもなんか真正面からとか詳しくないか！？　最後まで書いてねーし」
　続きを想像して、悠月は身震いした。
「絶対に回避してやる！！」
　今になって、真っ先に部屋を出るなんて、まずいことをしたと思った。
　ベタな台詞まで言った以上、最悪真っ先に『じぇのさいだー☆フジコ』に狙われる可能性だってあるのだ。
「一人でいるのは危険か」
　とりあえず誰かの部屋に避難をした方がいいだろう。この部屋は危険だ。
「メンバーの中だと……来島か？」
　クラスメイトだし、気兼ねすることもあまりない。
　行ってみるかと、悠月はベッドから起き上がった。

「死因は『だんだん眠くなって死ぬ』……？」
　来島アカリは台本を確認すると、釈然としないまま台本を置いた。
「って雪山の定番じゃねーか。このまま死ぬとか正直ありえねーんだけど……とりあえず、外には出ない方がいいか」
　厚いガラスに区切られた窓の向こうは真の闇。そこから張り付いついてきた雪を見て、アカリは芯から冷える心地だった。
「部屋で大人しくしてやり過ごせば、大丈夫だろ」
　自分に言い聞かせるように言った直後、部屋の扉が強くノックされたものだから、不覚にもぎくりと身体を強張らせてしまった。
「来島、いるか？」
「……なんだ、獅子目かよ」
　聞こえてきた声に拍子抜けして、アカリは顔をしかめる。
　普段よく喧嘩する相手なので無視しても良かったが、たったいま一人に不安を感じたばかりである。しぶしぶ扉へ向かった。
「入れろ」
「帰れ」
　開けた瞬間、不遜な態度の悠月の顔と声に出迎えられ、アカリは即座に腕のベクトルを変えた。扉を閉める。
「いいから入れろって」
　悠月が足をもぐりこませ、ドアの動きを封じた。
「なんでだよ」
「なんでもいいだろ」
「よくねえよ。言えよ」
「なんで言う必要があるんだよ」
「俺の部屋だからだよ馬鹿」
　悪態をつくアカリ。悠月にしても「一人でいたくない」などとは言えないし、ここまで来た以上引き下がれない。扉を挟んで盛大な喧嘩が生まれる。
「馬鹿ってなんだよ！？」
「カッコつけて出ていったくせに部屋訪問とかありえねえ」
「俺より馬鹿の部屋なら問題ないだろ！」
「なんだと！？」
　物を持っていれば投げ合いになるだろうが、あいにく二人の手には扉しかない。力の押し合いが冷戦のごとくとなり、声は剣呑さを増してゆく。
「譲らねえな」
「譲るかよ……いいから言えよ。それで考えてやるから」
　無駄に体力を消耗したところで、アカリの譲歩案。悠月が思案する。
「……からかいに来た」
「よし帰れ」
　苦し紛れの返答はあえなく却下された。
「はぁ！？　言ったら入れるって言っただろ！」
「考えるって言っただけだ！」
　扉を閉めようとするアカリ。悠月も自棄で抗う。
「いいから入れろよっ」
「イヤ、だ……っ」
　第二次冷戦で体力をすり減らしていると、廊下の向こうから激しい音が聞こえてきた。

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