暗澹の頁｜リアクション

暗澹の頁

　共有した情報を元に日暮ねむると話し合いを続けた花風冴来は疲れたという様に机へと腰を掛ける。椅子を引く事さえ煩わしいと言わんばかりに腰掛けた机が微かに軋んだ。
「疲れたわ」
　気紛れな少女はぼそりと小さく言葉を漏らす。月光の如き髪を揺らした彼女に「そうだね」と小さく呟いたなむるは小さく欠伸を漏らす。
　寝る間も惜しみ、探索を続けるねむるは一度ちらりと見た『ルールを把握している少年』が気がかりだとぽつりと漏らした。
「頁を見つけなくちゃいけないんだよね……」
「ええ、そうね。無事に帰る為にも見つけなくっては。それにしても――ねむるの言うとおりだわ」
　悩ましげに言葉を漏らした冴来の鼓膜を擽ったのは、小さな足音。
　ぎしと軋んだ音、教室から顔を出し図書室を目指す二人の前に血濡れの女が立っている。
「ひ――」
　息を飲んだ冴来を庇う様にねむるが前へと出る。背を向け、走り出すのは『角』。
　東へと走り、その先の図書館を目指した二人の策は冴来が囮となり呼び寄せ、ねむるが背後からろっこんを使用する、只、それだけだ。
　口付けた青薔薇(きせき)。縋る様に「お願い、止まって！」と無貌の女へと声をかけた冴来が小さく息を飲む。
　狂気に濡れた女にはろっこんによる影響を大きく見出す事は出来ない。精神への干渉はご法度だというように女は酷くくぐもった雄叫びを上げる。
「私達を呼んだのは貴女でしょう？」
　否定も肯定もない、叫び声を遮る様に、女の身体を羽交い締めにせんとねむるは飛び込んだ。
　ぐん、と彼女の拳が腹を狙い穿つ。怯む事無く受け止めて、唇から息が漏れた。
　軋む板を踏みしめて冴来がぐん、と女の身体を引き寄せる。バランスを崩した彼女へと放った暗示(ねむり)は逃走への十分な時間を稼いだ。
「寝た……のかしら」
「うん。危険な目にあわせてごめんね、冴来さん。怪我はないかい？」
　大丈夫よ、と小さな声と共に乱れたワンピースの裾を直した冴来はゆっくりと立ち上がる。
　書物の詰まった図書館へはもう少し。ゆっくりと、歩を進めながら重い戸を開いた。