暗澹の頁｜リアクション

暗澹の頁

　竹刀を構え、幼い頃から学んだ術が此処で役に立つのかと勘助は肩で大きく息をする。
　図書館での探索を念入りに行った勘助が手にしたのは卒業アルバムだったのだろう。清一郎へと預けたそれを教室内で開いた面々は一つ、気になる場所を指でなぞる。
「貌が――ない」
　ぽつりと零した修の声に大きく頷いたのは誰だったか。
　一人の女教師の顔が欠落しているのだ。写真を削ったかのように白いキズで顔を消されている。
　その風貌は確かめなくても十分に分かる――『彼女』だ。
　頁を見回した夏朝はもう一つ重要な事に気付いてしまった。

「え……」
　そのアルバムの頁には生徒の氏名と顔写真が並んでいる。
　恵御納夏朝。
　八神修。
　飛吹勘助。
　須藤清一郎。
「冴来と、ねむるも……」
　この世界に迷い込んだであろう生徒の名前がずらりと並んでいる。
　写真も皆、寝子島で見たそのままの顔だ。しかし、蛇那伊や楓子など一度『死』んだとカウントされたのだろう彼らの顔には白い傷が幾重にも重なっている。
「これ、」
「……『彼女』が教員室に何かを隠してるんだ」
　修は一度、ぽつりと呟く。

　あからさまに怪しい女、あやらさまに怪しい少年。
　血濡れで、あからさまに『頁の役を担っている』かのような彼――果たしてそれは本当か。
　アルバムの中に載らない少年はページなのか、それとも。

「『言えない』よ」
「それや。言えないっちゅーんがひっかかる。何でや？　マスクの所為か？」
　頭を掻いた清一郎の言葉に夜空は大きく幾度も頷く。寝子島でもあまり見かけた事の無い奇妙な風貌。
　じ、とマスクを見詰めた夏朝は「黒い本の、精霊さん……？」と夜空へと問い掛けた。
「ううん、でも、どうして……」
「アルバムに、載ってないし……仲良くしたい、とは思ってる。
　寝子島に居なかったよね？　沢山知ってるから――もしかして、何か巻き込まれた子？」
　じ、と見つめる夏朝の言葉に夜空はマスク越しで何か言葉を発した。
　否、マスクで遮られる様にその言葉は、夏朝の耳には入らなかった。
（この世界のヒントや情報を夜空はマスクで話せなくなっているのか？）
　考えは巡る。修の推測を助ける様に勘助は「朝長さんは、頁じゃなくて、本の人……？」と小さく零した。
（『本の人』……？）
　女の声が頁を探してと乞うた世界。
　何かを知っているかのような素振りを見せたノン・プレイヤー・キャラクター。
　彼がゲーム等で情報を伝える媒体(むらびと)と同じ役割を担っているのだとしたら――

「　ニ　ガ　サ　ナイ」

このページにイラストを設定する