冬の日。新たな始まり｜リアクション

冬の日。新たな始まり

　桜月は星ヶ丘寮の自室で目を覚ました。
「今日から、新学期……」
　大きなベッドから身を起こし、窓を見る。遮光カーテンからは朝陽は漏れ出ておらず、月はほっとした。今日はそこまで光に怯えなくてもすみそうだ。

　学校に行くのが、何だかひどく久し振りに感じられた。冬休みなんて約２週間、夏休みに比べれば１／３程度でしかないのに。
（休みに、色々な事がありすぎた）
　月はその陶器のような滑らかで白い頬をぽおっと赤らめた。思い出すのは友人でありメイドでもある、北条冬華との日々。彼女と一緒に過ごしたクリスマスや大晦日のことだ。
　嬉しいのか恥ずかしいのか分からない。胸にある何だか熱いカタマリに、心が焦げてしまいそうだ。知らず知らず月はギュッとシーツを握り締めてしまう。
　寒いはずの冬休みが、熱い冬休みに。それは冬華のせい。それは冬華のおかげ。

「……冬華さんと、一緒に学校へいこう」
　月はベッドの上で呟いた。彼女の名前を唇に乗せると、どうしてこんなに甘い味がするのだろう。
　冬華と車で登校しながら、どんな話をしようか。楽しく想像しながら月はベッドから降りた。

＊＊＊＊＊

　そして同じ街にある、１人で住むにはあまりに広すぎる豪奢な屋敷。
　そこでも少女がぽつんと目を覚ました。

（……ああ。家、なのね）
　朝鳥さゆるは重たい頭を片手で支えながらベッドから抜け出した。そのまま機械的にバスルームに向かい、熱いシャワーを頭から浴びる。
　自分の体を伝い、床に流れ落ち続けるお湯を見つめながら少しさゆるの頭がはっきりしてきた。そのまま身体にこびりつく夜の残滓を洗い流す。

　さゆるの心が揺さぶられた冬休み。結局、年が明けてからは、彼女は身体だけの付き合いの相手の家に衝動的に転がり込み、そこで狂ったような情欲に溺れた。
　カーテンを締め切り、朝な夕なとただひたすらに互いを貪り合う日々。誰でも良かった。この肌を温めてくれさえすれば。
　そして自堕落な時を過ごし、さゆるは昨日自宅に戻った……らしい。実はここにどう戻ったかの記憶がないのだ。だがそれすらも彼女にとってはさして珍しいことではなかった。

　男の残り香を洗い落とすとさゆるはキュッとシャワーを止める。そしてふと思い出した。
（今日、始業式だわ……）
　さゆるは大きなバスタオルに身を包み、裸体のままクローゼットから制服を取り出すと、身支度を始めた。

　大きな姿見の前で気怠く下着を着けていく。数え切れないほどの男が触れたその肌を制服の下に押し込め、鏡を見ながらきっちりとボタンを留めた。
　そこに映るのはアンバランスな少女の姿だった。１５歳には到底見えない大人びた美貌が、着崩さずに纏った寝子高の制服姿に非常に不釣り合いだ。それは明らかに異様で、はっと人の目を惹きつける。
　そんな自分の容れ物をさゆるは暗い瞳で見つめていた。誰が知っているのだろう。容れ物の中身が絶望的に荒れ果てていることに。

　さゆるは自分の瞳の奥を見つめ続ける。
　その中に巣食う、破滅願望と言う魔物を凝視するように。

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