【星幽塔】第二階層　ラッシュ・ザ・ストリーム｜リアクション

【星幽塔】第二階層　ラッシュ・ザ・ストリーム

「どっせえええいいい！！！」

　一方、下り坂ルートを選んだ一同。
　半ば激流に押し流されるように、彼らはまっしぐらに滑り落ちてゆく。
　めくるめく加速度。
　バランスを取り、転ばないようにするのがやっとだ。

　――外れをひいちゃったかもだね……。

　ちらりと考えつつも、円は躊躇せず前方に躍り出る。
　危険であればあるほど、自分のろっこんは研ぎ澄まされる。
　なにより、己自身を高ぶらせることができる。
　闇の中から飛来するスライムを炎の力で撥ね飛ばし、石つぶてを軽く粉砕。

　円の影に隠れるように、海が様子をうかがう。
　まるで水上スキーのように滑走する円に従う海。
　シュプールを湾曲すると、盛大に水飛沫が上がる。
　眼前に岩を見つけ、危なげなくろっこんを発動。
　一メートルほどもある、長い筆の穂先に光がともる。

　――アクセラレイトライン！

　筆の穂先が宙に曲線を描くと、それに沿って体が移動する。
　完全に慣性を無視した動きで、巧みに凹凸を潜り抜けていく。
　スライムを誘導し、縦横無尽に移動する海と円。
　盛大に水飛沫を上げながら、海は身震いする。

　――ちょっと、躰が冷えちゃったかな？
　
　華奢な彼女、けして乱暴な運動に慣れてはいない。
　息が切れる。とてもじゃないけど、最深部まで持ちそうにない。
　どこか、休めるところがあれば……。

　不意に脳裏に、先ほどの怪しげな建物が浮かんだ。
　
　まあ、状況によりけり。筆の向くままだ。
　大きくスイングし、飛来してきた岩塊を壁に弾き飛ばす。

　同じく巧みにベクトル操作の技を使い、障害物を撥ね飛ばすのはエヴァ。
「滑るときは、なるべく身を低くしておいた方がいいわね……」
　体を低くかがめ、上空を過ぎる氷塊を感じながら、着実に道を切り開く。

　そして、一際危険な先頭を突っ走るのは夏朝。
　
　走る。
　走る。
　闇の奥めがけ、いっさんに走る。
　手にした鏡で、常に後方を確認する。
　崩れた橋の橋桁と思しき、巨大な構築が滑り降りてくる。
　すぐさま手甲からワイヤーを射出。大きくスイングしながら回転。
　振り向きざま、飛び出したねこシールを投擲。
「軽く！」
　重力を操るろっこん能力を発動させる。
　とたん、頑丈な石の柱がアルミニウムのようにぐしゃりとつぶれ、引きちぎれる。
　破片は海とエヴァが弾き、シグレたちが始末する。

　どこまで続くとも知れない傾斜。
　大きくうねり、撓み、そして不意に視界が開け――。

　分岐点が見えた。
　ちょうど、高速道路の降りる地点のような、張り出し部。
（あそこから、別のルートに行ける！）
（このまま、流されるべきか……）
（それとも、他ルートに侵入するか……）

　一同を急き立てるように、背後から大波。
　ためらう暇はない。
　直感が頼り。
　最後に脳裏にあったのは、先ほど見た謎の建物の姿。

　温泉に魂を引かれた者たちは――果たして、何人？
　