【星幽塔】第二階層　ラッシュ・ザ・ストリーム｜リアクション

【星幽塔】第二階層　ラッシュ・ザ・ストリーム

　下りの傾斜に飲み込まれていった一同を見つつ、庚は行く手を見た。
　どのような機構か、あちこちの水道橋が途切れ、ゆらゆらと揺れている。
　振り子のような加速度運動、規則正しい円運動、水が溜まってそのまま打ち付ける様は、まんまししおどしのそれである。
　水の流れも歪み、複雑で、あからさまに物理法則を無視しているところもあった。
　どうも、外れのルートだったようだ。
　――上等。
　外れであって、幸運。自分にぶち破られる壁が、ほんの少し遣り甲斐が大きくなっただけ。
　ただ突っ走るのみ。
　
　委細構わず走り出す庚を、梢は慌てて追いかける。
　
　ゆらゆら揺れる橋の突端に立って、足がかりを確かめるのは月。
　黒いフードマントが風になびき、そのまま闇に溶けてしまいそうな錯覚を覚える。
　だとしたら、彼女をつなぎとめるのは、己の体に巻き付けた縄。
　複雑怪奇な機構を眺め、改めて修の準備周到さに感じ入る。
「皆で協力して進むんだ」
　ハーケンを取り出して調子を確かめ、慎重に進む修。
　バランスを崩しそうになる美咲紀を気遣う。
（構造の隙間は緩い……）
　救助が必要ならば、ハーケンを打ち込み救出に向かう。
　探検部で培った知識、日々の鍛錬で蓄積した体力で、なんとしても救出する。
　こんな場所で落伍者は出さない。
「水流が緩やかな、岸近くを走った方がいいぞ」
「シューくん、オッケーです！」
　あわやという場面もありつつ、丁寧で落ち着いた移動で、美咲紀も順調に進んでいく。

「うおおおおお！」
「たあああああ！」
　猛烈な勢いで激走していくのは、利平、そして轟――今はストレイト。
　多少のギミックはこだわらぬ。あえてＢダッシュの心意気。

　ダンスで鍛えた利平、脚力には自信がある。
　激しく上昇する通路に飛びつき、空中でバク天。
　満月をバックに、水を蹴り上げた利平のムーンサルトが決まる。
　マカコからのバク天、ロンバート。
　はっしと見上げる瞳は、敵への挑発と、味方への鼓舞にきらめく。

　負けていられない轟も、日ごろの鍛錬の成果、逆巻く水を蹴散らし突き進む。
　急激に落下する通路を、空中から跳躍。鮮やかなバク中から、空中ダッシュ。
　水にぬれた戦闘スーツが、眩くきらめく。

　にぎやかで派手な二人とは対照的に、歩と刀は冷静だ。
　鋭い眼光でルートを確認。緻密な動作で危なげなく進む。
　目を引く派手さや、速度こそないが、体力の消費を最小に抑えた無駄のない動き。
　彼らの後ろにつく時子、すこしでも役に立てればと、スライダーが持ち上がる際に傘を開いて、風を巻き起こす。
　ふわりと浮かぶスライダーは傾斜が緩まり、安全な移動が可能になる。
　彼らの後から水上、時子に礼を言いつつ、足場に注意しつつ進む。
　腰のクロスボウが揺れる。もしも障害物があれば、それで砕く。

　先頭を行く庚と梢の目の前に、一際巨大な円形の場所が見えた。
　ちょうど『島』のような塩梅だ。
　庚は唇を噛む。これまでとは様子が違う。
　おそらく、本格的な『敵』がいる……。

　『島』へ次々に飛び移る影。庚、梢。刀に歩。
　慎重な修たち、轟と利平はまだたどり着かない。

　そして……２つの影が、彼らとは反対、地の底へと降りていく。
　フォローをして、この場の役目を終えた彼女、次の戦闘へ。
　銭湯へ、とあえて言うべきだろうか。

　闇の中に傘が開く。
　桜と時子、神殿様の建物に姿を消した。