【星幽塔】第二階層　ラッシュ・ザ・ストリーム｜リアクション

【星幽塔】第二階層　ラッシュ・ザ・ストリーム

　水龍は狡猾だった。
　はなからアクアブレスでの殲滅は期待していない。
　なるべくか弱い相手を狙い、場外へ振り落す。
　動揺し、戦線が乱れる隙に各個撃破する。
　狙いすました切り札の連発。
　一打目は躱せても、二打目、三打目を躱す余裕がない。
　じわじわと距離を詰めながら、水圧の息吹の準備を始める。

「大きいのが来る！　水に潜れ！」
　策士、修とは言え、そう言うのが精いっぱい。
　ろっこんによる石片操作で即席のバリケードを築こうとするも、集中は息の続く限りしか持たない。
　竜との肺活量勝負。ぞっとしない。
　だが、そんなことは言っていられない。すべてのカードを切るのみ。
　必死で身を伏せる一同――。

　だが、そこに。敢然と立ちはだかる椿美咲紀の姿があった。

　――美咲紀！
　――椿さん！

　風の力で、ゆっくりと美咲紀の周囲が渦を巻き始める。
　ぼうっと霞んだ、青い膜のような微光が彼女を覆う。

　――魔風の力を、ブレスに真っ向ぶつければ、威力は下がる……。

　組み合わせた両手に、光が溜まっていく。
　愚かな標的を見つけた水龍、勢い込んで美咲紀に標的を絞る。

　――風と息吹だから、相殺効果がきっとある……。

　確かに範囲の広い攻撃をまともにくらえば、被害は甚大。
　だが……。

「危険すぎる賭けだ」
　誰かが叫ぶ。

「大丈夫！」
　むしろ歓喜に胸を張って、美咲紀が答える。

「その間に、月ちゃん、シューくんが、きっとやってくれるもん！」

　龍の口腔から、その瞬間、膨大な水が迸った！
　迎え撃つ美咲紀。風が流動し、水流を四方八方にまき散らす。
　壮大なスペクトル。めくるめく虹色の奔流。

　風の力に風の力をぶつけ、その力を減殺する……。
　あまりにも大胆な作戦。
　だが、アクアブレスは風圧だけによるものではない。
　鋭い水流、炎の息にも似た、龍の口腔から放たれる衝撃。そして何かわけのわからぬ、得体のしれない力。
　風のヴェールで弾ききれないそれらが、まっしぐらに美咲紀めがけて襲い掛かる！

　――ひゅっ。
　最後の風の力が鎌鼬となり、龍の右目を裂く。
　

　――ドォォォォ……ン――

　ひどく長い音響と、盛大な水柱を作り、美咲紀の体がまともに衝撃をくらう――。

　大きく弧を描いて、水道橋の欄干から、一人の影が放り出される――。　

　誰かの悲痛な叫びが、夜天を裂く！

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