大きなイチョウの木の下で｜リアクション

大きなイチョウの木の下で

　
●雑貨店『memoria』

　修からの頼まれ物――道江の墓に供える用にと母子が仲良く寄り添う情景のフィギュア――が書かれた紙をポケットに、帰宅したころにはすっかり夜も更けていた。
　店内は常夜灯が灯り、しっかり戸締まりされている。鍵を使って裏口から入ると、ダイニングのあかりが廊下に漏れていた。
　案の定、密架だ。
　喬の帰りを待っていて、眠ってしまったようだ。
「なんでこんなこと……。
　おい、起きろよ。寝るなら自分の部屋で寝ろ。こんなとこで寝たら風邪ひくだろうが」
　声をかけたがまつげ１本揺れない。机に突っ伏したまま、すっかり眠り込んでいる。
　――まったく。
「こっちも疲れてるってーのに……しゃあねえな」
　舌打って、よっこらしょ、と抱え上げる。
　自分でさえこれだけ疲れているのだ、あそこにいた者たちは今ごろくたくたになって帰宅していることだろう。精力的に動いているのは、たぶん真相を記事にしなくてはと意気込んでいたあの記者ぐらいだ。
　そんなことを疲れた頭でぼんやり考えつつ、２階の部屋へ連れて行こうと階段を上がっていたところで、密架が小さくうめいた。
「……たか……」
　起きたか？　と覗き込む。
「おい。起きたなら、自分の足で歩いて――」
「……さん。……たか、し、さ……」

　――――あいたい……。

　一瞬心臓を貫いた小さな氷の刃を、一体何と言ったらいい？
　喬はしばらくその場を動けなかった。
　流れてシャツに染み込む滴を感じながら、ぎこちなく階段を上がり始める。

　　　人は、だれしもさまざまな思いを抱えて生きている。
　　　生きるしかないのだ。

「……知ったことかッ」

『大きなイチョウの木の下で　了』

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あとがき

担当マスター：寺岡志乃
ファンレターはマスターページから！

こんにちは、またははじめまして、寺岡といいます。
当シナリオにご参加いただきまして、ありがとうございました。

長らく公開をお待たせすることになってしまい、申し訳ありません。
想定していました以上に文字数が増えたといいますか……ご覧のとおりです。

次回からはこのようなことのないよう、気を引き締め直して執筆にあたりたいと思います。

それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
次回もお会いできたらとてもうれしいです。
もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいな、と思います。

それでは。また。

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