【お正月】初夢～今年のお年玉はダテじゃない！｜リアクション

【お正月】初夢～今年のお年玉はダテじゃない！

●「楽しい」買い物

「うっひゃあ～すごい金額や！」
　渡されたカバン。その中に入っていたお金に、四野辺蘭月ははしゃいでいた。
「これだけあったらアレできるんちゃうか？　ショップ行って『この棚のもの、全部』言うのん！」
　趣味は買い物である蘭月。浪費したって後悔はしないが、あれもこれもすべてが買えるわけじゃない。
「ショッピングモールで好きなブランドの服買い占めたるわ！」

　意気揚々とシーサイドタウンへ行き、よく通う店へ。
「この棚のもの、全部いただこか！」
「……よろしいのですか？」
「え、ええんやで？」
　聞き返されて、一瞬普段の金銭感覚に戻る蘭月。
（そういえば、金額大丈夫やんな……？）
　会計が終わる。通常ならありえない購入額が表示される。
「あれ……？」
　支払いを終えた蘭月は、魔を丸くしてカバンの中を見た。
「まだ、こんなに余ってるん？　せやったらアクセもまとめ買いや！」
　もう一軒の店へ。いつもなら何度も見返すが、今日は目に付く端から購入していく。
　しかしまだ減らない。
「今度はご飯や！　普段は絶対無理なめっさ高いメニュー頼んだる！」
　気の向くままに食べて、会計を済ませる。カバンを確認。
　自分の望みを片端から叶えた金額も、カバンの中の総量にしてみれば微々たるものだった。

「あたし……百万くらいしか使っとらんかったんや」
　これなら、もっと使っても大丈夫そうだ。
「なにか、なにかやりたいこと……」
　頭を絞って考えて、蘭月はポンと手を鳴らす。
「ほな、しょぼい下宿から豪華マンションに引っ越しかなー」
　今日はパンフレットでも持って帰って、良さそうな場所を選ぶことにする。
「う～ん、でも、そろそろ使い道が出て来ぃひんようになってきたわ」
　欲しい物、やりたいこと……それから考えても、大金が動くような願いは見つからない。
「根が貧乏性なんやろか？」
　まあいっか、と蘭月は下宿先に帰っていった。

「ふ～、買った買った」
　戦利品を置く。なんだかどっと疲れが出てきた。
　それも当然。いつもとは比較にならない「欲しかったもの」を買うことができたのだ。
「ふふ、ええ気分や…………のはずなんやけど」
　呟いた自分の言葉に、蘭月は首を傾げた。何かおかしい。
「うん。ええ気分やな？　せやけど、なんかいつもと違うような」
　奇妙な感覚に考え込む蘭月。
　やがて、眼鏡の奥の目が見開かれた。
「そっか」
　自分の買ってきた、大量の欲しかったもの――自分一人の手には余る量の服やアクセサリを見る。
「これだけ買っても、全部着て付けられるワケやないんや」
　普段はどれも、バイトで必死で貯めた予算から、選び抜いて買っている。
「そやさかい、どれも大切に使ってるんや」
　確かにどれも欲しいが、本心からそう思うものは実際には少ない。そうして選んだ物は、値札以上に価値を感じる。だから楽しい。
　今日の自分は「手当たり次第」。最後の料理店なんか、食べたかったものを差し置いて高い物を選んでいた気がする。
「なんか、アホらしなってきた」
　部屋を見まわす。たしかに不満はある。だけど近くに友達もいるし、たくさんの買い食いルートだって開拓してきた。
「ご飯とか家はええのんに越したことないけど、まだちょっと早いかなー」
　かえって落ち着かないし。
「やっぱあたし、今のままでええのんかもな」
　結論を出したその時、灯りが消えて真っ暗になった。

「あー、ええ夢やった」
　住み慣れた下宿。目覚めて伸びをして、蘭月は言った。
「今の時給じゃ、あの夢には全然おっつかへんけど……とにかくバイト行こーっと」
　蘭月は支度を始める。
「そろそろ冬物の値引き、春物の動きもチェックしとかな……ん？」
　電灯に近づいて目を細める。
「うわ切れかけてる、これも買わな！」
　蘭月の買う物はまだまだ沢山あるようだった。

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