【お正月】初夢～今年のお年玉はダテじゃない！｜リアクション

【お正月】初夢～今年のお年玉はダテじゃない！

●甲斐無き価値の後奏曲

「…………」
　唐突に渡されたカバンを、朝鳥さゆるは醒めた目で見つめた。
　中身は大金……途方もない大金が詰まっていた。
「…………」
　きっと、一生働かずにすむだけの大金なのだろう。
　普通なら、きっとマトモな精神状態ではいられなくなる金額。
　けれども……彼女はちっとも心が動かなかった。
　さゆるの過去に起因する、心にぽっかりと空いた穴。
　その穴から覗き見えるのは闇、永遠の冷たい夜。光さえも飲みこむ底なしの漆黒。
　心の穴を満たしてくれるものを求めて、さゆるは三年間さまよい続けた。

　夜の街には、身体が壊れるような狂った快楽・情事が溢れていた。
　夜を越すために、睡眠薬による、夢を見ない泥のような眠りをしたこともあった。
　そして破滅願望に衝き動かされるがままの、暴走――命をかけた遊び──も。
　どれも、心を満たすことはない。
　本当に最初だけは一瞬、期待もした。そして期待しては、何もかもが心に辿りつく前にポロポロと零れ落ちていく。
　そうした感覚に、何度も裏切られて。
（でも仮に辿りついても……受け止めるべきあたしのほうが）
　心も意識も砕片化して、まとまりもつかずに散らばっている。
　だから、何も感じられなくなっている。
　それとも、
　砕片となった心がまとまらないから、何も辿り着かないのか？
　底に穴の開いた器に、水がたまらないように。
「…………」
　さゆるは無言のまま、詮無い思考を打ち消した。
　いずれにしろ、今さら大金なんて何の意味もない。
　むしろ十分な額がすでにある以上、余計なものは邪魔だった。
（このまま捨てても良いけれど……）
　さゆるはメモを取り出す。
　丁寧な字で『このお金を必要な人に必要なだけ差し上げます。私には無用のものです』と書く。カバンの中に入れ、近くの交番前に名前も告げずに置いて立ち去った。
「――」
　振り返らないあゆるの顔には、美しき微笑がある。
　ただしそれは、決して外に向けられたものではない。ただただ自分に向けた、静かな嘲りだった。

●Money have masks?
「ああ、そういう選択をしたのか」
　一部始終を見届けたその人物は、静かに踵を返した。
「お金は人を変えず、その仮面をはがすだけ――ヘンリー・フォード。そして人の本性をのぞき見れるのは、私たちぐらいしかいない」
　そう言ったその人物は、見る者によって違って見えた。彼は日本の偉人であり、海外の大統領であり、硬貨の肖像画その人であった。そしてその誰でもなかった。
　その手にはいつの間にか、「彼ら」の詰まったカバンがあった。幸か不幸か今日も誰かが選ばれ、彼らは仮面を剥がそうとする。
　彼らは自分たちの楽しみの為に、今回も自らを差し出した。
「お年玉をあげよう」

ＥＮＤ

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：叶エイジャ
ファンレターはマスターページから！

こんにちは！
このたびは、『【お正月】初夢～今年のお年玉はダテじゃない！』に参加いただき、ありがとうございます！

お金と言えば、クレヨンな幼稚園児一家がハワイだったかグアムだったかに行った折、「マイファミリーイズノーマネー！」と叫んでいたのが心に焼き付いております。
今回はお金が無くなりません。豊富な資金を手に、美味しい物を食べたり、課金したり、旅行したり、商売したり、カジノへ行ったり、はたまた怖かったり不要だったりなどなど。
アクションがどれも面白く特徴があって、それをリアクションで応えることができたなら幸いです。

このたびはご参加ありがとうございました。
またご縁がありましたら、宜しくお願いします。

↑ページトップに戻る