【お正月】初夢～今年のお年玉はダテじゃない！｜リアクション

【お正月】初夢～今年のお年玉はダテじゃない！

●ニューイヤーズキャロル

「お年玉をあげよう」
「……ん？　え？　は？　なにこれ！」
　三谷賢二は唐突に渡されたカバンを見て、渡してきた相手を見て、誰もいないのに驚いてカバンに視線を戻した。
　中を開けてみる。
「お金がこんなに！！　ちょ、え、どうしよう！」
　言いつつも、笑顔の賢二。なんて最高の年初めなのか！
　しかしそんな感情も、わずかの間のことだった。
「てかちょっと待てよ……なんで俺、こんな往来にいるんだ？　……確かカウントダウン番組見て……夢かよちくしょう！」
　気づいてしまった賢二。でも、それならそれで何をやってもいい。せっかくなら色々やってみるか！　と、町へとくり出した。

「一度買ってみたかったんだよな」
　足を止めたのは高級ブランドを扱っている服飾店。賢二はショーウィンドゥに映った自分を見た。
　チャラい感じの青年がそこにいた。イケてなくはないが、大学生らしいといえば大学生らしい服装だ。
「気になるブランドを総買いして、ファッションショーといくか！」
　中に入る。夢にしてはリアルなので最初だけドキドキしたが、高級服を何点か買い込むうちにその感覚もマヒしてきた。

「どう、これ？」
　まずはできる男っぽくスーツ。
「お似合いです。こちらのハットも合わせてみては……」
「いいじゃん。じゃそれで」
　次はちょっとワイルドに革ジャン。サングラスとシルバーアクセで彩っては鏡の前でポーズ。
「一人じゃ映えないな。ちょっと君も着替えて隣に来てよ」
「三谷様、困ります」
「ミタニンって呼んでよ。着た物は買ってあげるからさ」
　こんな感じでもお金次第で、ナンパとして100％成功する。
　こうなると世の中とて、課金ゲーである。
　続いてシルクハット、着物と、まさに俳優になった気分で衣装を身に着けていく。
「支払いはキャッシュで」
　カッコよく決めるミタニンこと賢二。
（でもカードの方がいいか？）
　一々札束を取り出すのが面倒だなぁと、百枚以上の諭吉を数え上げていく。
　つい正確に数えちゃうのが、やっぱり慣れてないとも言えた。

「次は高級スイートルーム！」
　結局、気に入った一着以外は店に置いてもらって、ビシッと決めた賢二は最上階にチェックインを果たす。
「こんなガムが七百円、コーラが千円……高っ！　でも安っ！」
　ルームサービスを次々と頼みながら、まだ明るい空を眺めながら風呂へ。
「ジャグジーにテレビ付きか！　映画のドンじゃん！」
「三谷様、お飲み物はこちらで？」
「あ、うん。適当に置いといて」
「かしこまりました。注文いただきました神戸牛のステーキは夕食にご用意いたします」
　丁寧に礼をして去っていくホテルマン。賢二はテレビの選局を決めると、泡風呂の中で伸びをした。
「たーのしー！」
　さて、次は何しよっかな……。
「そうだ、みんなを呼んでパーティでもするか！」
　携帯を手に取ってかける。次々に知人へ連絡をとるが、次第に賢二の顔から笑みが消えていった。
（不通か……繋がっても忙しい、か）
　急に部屋が広くなった気がした。ジャグジーとテレビの音がやたら大きく聞こえる。
「やっぱり……一人じゃなんか、さみしいな。金があってもこれじゃなぁ……」
　天上を仰ぐ。うっかり身体が滑って、水に頭まで沈んでしまった。

　賢二の夢はそこで覚めた。
「あ……朝か」
　見慣れた天井に周囲を見ると、住み慣れた狭い部屋だった。賢二は苦笑する。
「ちょっと残念だったなー……」
　でもまぁどこぞの金貸しのように、金に執着して寂しく地獄に落ちるよりはいっか、と思いなおす。
　自分が死んだことを喜ばれるような人生は、嫌だ。
「あの話みたいに、良いことでもしに行こうかな」
　とりあえず餅食って初詣だ、と起き上がる。
　こうして賢二の新年は幕をあけた。

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