【お正月】初夢～今年のお年玉はダテじゃない！｜リアクション

【お正月】初夢～今年のお年玉はダテじゃない！

●プレッシャーバッグ

　歩いている間、気が気ではなかった。
　深縹露草は震える手で、自室のドアを閉めた。すさまじい音を奏でるが、むしろすさまじいのは心音の方だった。
　手にしたカバンを押入れに放り込み、頭から布団を被って横になる。それでも彼の身体は震え続けた。
「ど、どうなってるデース？」
　布団の中にもぐっても、意識してしまうのは押し入れのカバンのことだ。

　ついさっきのことだ。
　唐突に渡されたカバンを開けると、溢れんばかりの札束が出てきて。
「こ……こんな、鞄を膨らます程の大金など貰えませ……って、クーリングオフも不可デースか！？」
　青い顔した露草がどこを探しても、カバンの持ち主は見つからなかった。

「はぁ……よりによってなんで私に」
　普通の人間なら泣いて喜びそうなプレゼントでも、露草にとっては逆効果だ。
　自分のために他人が大金を使ったり、あるいは大金を譲渡してきたりするのは苦手というか、正直トラウマなのだ。
「お年玉……個性豊かなポチ袋に、一、二枚封入されたお札。それがお淑やかデース……ふふふ」
　ぶつぶつと現実逃避の言葉を呟き続ける露草。こうなっては二枚目どころか三枚目も台無しである。
　延々と「コワイデース。もらった大金コワイデース」と震えていた露草は、やがてげっそりとした顔で出てきた。押し入れを開け、おそるおそる中を見る。
「ヒィ！？」
　カバンが消えてるわけがない。
　念のため中も見る。
「ヒィィ！？」
　なんで消えてると思ったのか。
「タヌキやキツネに願ってもダメデースか」
　どうやら化かされたかったらしい。
　札束を、まるで惨殺死体でも見るかのように眺めていた露草は、しかし徐々に目に意志を宿していった。
「怖いですが……無駄にするのも申し訳ないです」

　金は天下の回り物。
　金で買えないものもある。
　だけど大概のものは金で買えちゃうし、大抵の人は幸せになれる。

　露草はさっそく、カバンを空にすべく手紙をしたため始めた。
「ネットで検索して匿名で……」
　たとえば孤児院への寄付。老朽化した施設の修繕費。最先端医療への研究費等。
「いわば『虎の皮を被った活動』！　さあ、どんどん送っていくデース！」
　目に闘志を燃やして取り組む露草。
　このことがきっかけで、彼はトラウマを克服できたのでした。
　めでたしめでたし。

　となることもなく。
「……おかしい、おかしいデース……」
　カバンをもらってから数日後。露草はガクガク震えていた。
「あれだけ数多の場所に寄付したのに、鞄の中のお金が全然減ってない気がするのデースひぃぃぃ！？」
　ふと気づけば鏡に反射して、押し入れからカバンがはみ出しているのが見えて、露草が絶叫する。
「オカネが私を監視してるデース！？」
　震える手で中身を確認すると、むしろ初日より増えている。
「これはもしや……某童話のおかゆが湧き出る鍋！？」
　正しく止めなければ永続的に湧くというやつだ。
「そうだ、バイト、バイトしまショウ！」
　自身が稼いだお金ならば、恐怖もないし困る事もない！
「何故なら私の金だからサＨＡＨＡＨＡ！」
　もはや錯乱中の露草。
　むしろ最初から錯乱中だ。
「ちわっす。出前っす」
「ＨＡＨＡＨＡＨＡ！」
「あの、代金……おお！　こんなところにお金が沢山！？」
「お金なら好きなだけどーぞどーぞ」
「え、いいんすか？」
　錯乱中の露草。次に気づいたときにはカバンが無くなっていた。
「ワット！？　あ、でもこれで平和に……良かっ」
　安堵しかけた露草、途中で形相が変わる。
「たなんて思って申し訳ありません下さった方ァァァァ！？」

　元旦が土下座起床である。
「……」
　雀の声。
　平穏な朝。
　閉じられた押し入れ。
　開けてみる。
「鞄が……ない！」
　露草は今度こそ安堵した。
「おや？　姉上から電話が……ハッピーニューイヤー！」
　調子よく新年のあいさつを交わしているうち、露草の表情が突如変わった。
「え、お年玉……ノオオオ！？」
　どうやら、「お年玉」もトラウマになりそうだった。

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