フリーマーケットに行こう｜リアクション

フリーマーケットに行こう

【買い物とは出会い】

「うちの子達は売り物じゃないのだ！里親募集中なのだ！」

天真爛漫な後木真央の主張にフリーマーケットのスタッフは苦笑しながら妥協案を提案せざるを得なかった。
今回のフリーマーケットでは飲食物や生物といったナマモノ全般の販売を禁止している。
勿論猫もその中に含まれる。
しかし、真央は今回開催前から準備して持ってきた様々な猫関連グッズに加えて本物の猫を連れてきたのだ。
それを目ざとく発見したスタッフから真央に注意が入ったのだが、当の真央は猫を「売る」つもりは更々なかった。
彼女の目的はあくまでも猫達が良い里親とめぐり合うことと、一人でも多くの人に猫の魅力を知ってもらうこと。
だからスタッフに注意されてもいまいちピンときていない様子。
そこでスタッフは真央にある提案をした。
それは猫グッズ購入者に里親募集のチラシを渡し、希望者がいた場合はフリーマーケット閉場後にやりとりを行うこと。
真央もその条件を快諾したことで、真央のスペースで猫のアップリケがついた大中小のサイズ分けされた袋や便せんを買うと漏れなく里親募集のチラシがついてくることになった。

「あ、真央ちゃんじゃないかー。猫グッズ可愛いね！オススメはなになに？」

猫グッズに惹かれてやってきたのは先ほどまでコスプレ衣装を買い漁っていた空音だが、先ほどの暴走モードは解除されていた。
邪な想いに囚われることなく、売り物の猫ぐるみをぎゅーっと抱いて可愛らしさを堪能している。

「袋が一押しなのだ。でもそのくたくたぬいぐるみもオススメなのだ！」

空音が抱いているぬいぐるみはふわふわだが確かに少しくたっとした感じがあった。
恐らく真央が大切に可愛がっていたのだろう。
ぬいぐるみのくたびれた感じはどこか安心感を含んでいる。

「ほよよ！この子なんだかすっごく気持いいんだよー！コレ買っちゃおうかな。里親もなりたいんだけどねー、おばちゃんの許可がいるんだよね……」
「そっか、残念なのだー。でも代わりにその子は大切にしてほしいのだ」
「うん！絶対大切にするよ！！」

くたくたぬいぐるみを抱いて去って行った空音と入れ替わりで真央のスペースにやってきたのは八神修だった。
ペット飼育用品や可愛い猫グッズを求めてやってきた修が目をつけたのは猫のアップリケがついた袋。
可愛いだけではなく、実用性も高そうだった。

（七夜に似合いそうだな、こういうの）

袋を手にとった修の脳裏によぎったのは同じクラスの七夜あおいの顔。
そして気が付いたら大中小、それぞれのサイズの袋を一つずつとタオル生地のぬいぐるみもいくつか購入していた。

「毎度ありー！なのだー♪」
「はっ……！？」

真央の明るい感謝の言葉で修は漸く我に還る。

（何かあげるような関係じゃないのに、何やってんだ俺は……）

片手で痛む頭を抑えて溜息をついたところで、袋と一緒に渡されたチラシに気付く。

「里親、募集？」
「そうなのだー！真央ちゃんの猫を可愛がってくれるお家を募集中なのだ。三毛に白に黒にキジトラに……とにかく色々いるのだ！」

そう言って真央がシートの上に敷いている猫柄フリースをめくると、もぞもぞと数匹の仔猫達が顔を覗かせた。

「あ、でもがおーはあげられないのだ。ゴメンなのだー」

真央がそう断りを入れると、ろっこんで店番兼マスコットとして呼び出した三毛猫のがおーが真央の腕の中で喉を鳴らした。

「そうだな……」

こちらを見上げてくる仔猫達の愛くるしい瞳を見つめつつ、顎に指をあてて修はしばし考え込む。
思い返してみれば修は動物と何かと縁がある。
高校に入学して二か月足らずの間に仔猫二匹と仔犬一匹を家に迎えることになり、この調子で行くと将来八神動物王国が出来てしまうかもしれない。
しかし……。

『みゃあ？』

灰色の体に青い瞳を持つ仔猫が自分の足にすり寄って来た時に修の答えはもう決まっていた。

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