【お正月】寝子島神社に願いを込めて｜リアクション

【お正月】寝子島神社に願いを込めて

　元旦ともなれば寝子島神社は人で溢れ返っている。
　寝子島に愛着のある友人達を多数知っている八神修にとって当たり前の日常は、賑やかな空気で溢れていた。
　擦れ違う友人達へと挨拶もそこそこに、修は白い息を吐く。
「あ、明けましておめでとう」
　まるで幼い子供の様に、無垢な笑みを浮かべた七夜あおいが橙色の着物の袖を揺らして手を振る。
　沢山の友達の中だ、同行しないかと誘いをかければ彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「あおいはもう参拝した？」
「ううん、まだ。修くんもまだだよね？」
　何をお願いしようか、と矢継ぎ早に問い掛ける様子は『気になってしかたない』ということなのか。
　空色の大きな瞳は勿論教えてくれるでしょうという期待が込められていた。
「私はね、料理を上手に作れるように――かな……。
　弟も妹も、美味しくないって言うんだもん。ぎゃふんと言わせてやらなくっちゃ」
　ふん、と外見に似合わぬ男勝りな性格を表す様にワザとらしく作った力瘤につい笑みが零れる。
　大家族の長女ともなれば家事も優秀だと考えられるが、あおいの料理は自他共に認める短所だ。
　それさえも可愛いと考えてしまうのだから惚れた方が負けという言葉は正しいのだなと修は頭を掻いた。
「料理なら応援するよ。神様だって叶えてくれるはず。
　あおいの作った料理、よければ食べさせて貰えないかな？」
「……出来が良かったらね？」
　失敗作は人様に食べさせられませんとけらけらと笑って見せた彼女は期待された事を喜ぶ様に口角を釣り上げた。
　桜模様の描かれた手持ち鞄がぶらりと揺れている。
　淑やかな様で豪快で有る事を修は知っているからこそ、彼女のお転婆な仕草を気遣う様に横にそっと並んだ。
「野々達も来てるだろうか？」
「あ、さっき縁日の方に居たかも？」
　ちらりと見かけた気がするとあおいは空色の着物に薔薇の髪飾りを付けた普段よりも大人びた野々ののこを思い浮かべる。新年の始めに見た彼女が「2年生になれますように」と不穏な願いをしていた気がして、「出来なかったらどうしようね」と可笑しそうに笑みを零した。

　

　紫から購入した御神籤を手に修は小吉と中吉に関する『豆知識』をあおいへと披露する。
　きっとののこは大吉だろう――ラッキーガールの名が似合う者は彼女以外にそう多くは無い筈だ。
「あおいのは？」
「――……末吉、かな」
　結果が良くなかったと拗ねた様な表情のあおいに大吉を差し出す修は相当ツイていた。
　勿論『大吉』や『末吉』よりも気になるのは恋愛についての欄で。
「あおいの結果は、恋愛は……『良縁は友人から持ち込まれます』、か。
　案外、近くに転がってるかもしれないぞ？」
　冗句めかして告げた言葉にそうかな、とあおいは小さく笑う。
　気付けば少し長く外に立っていたのだろう。彼女の漏らした小さなくしゃみに、何か温かい物を買おうかと修は彼女を手招いた。
「そういえば、アップルパイがあるんだよね。買いに行ってみようか？」
　積もる話を重ねながら、平穏に潜む『悪夢』に攫われぬ様にと彼女を寮へと送ると決めていた。
　そのまま本土に戻り家の行事をこなす修へと「気を付けてね」と気遣う言葉を掛けたあおいは「また」とひらりと手を振った。

　また連絡するよ、と携帯電話を片手に挨拶を送る修の背を見送りながら、冷え込む正月をどう過ごそうかとあおいは空を見上げる。
　枝に結んだ御神籤に料理運が無かった事を少し残念に思いながら「楽しかったね」とメール本文へと打ち込んだ。