【お正月】寝子島神社に願いを込めて｜リアクション

【お正月】寝子島神社に願いを込めて

　大晦日から元旦にかけての神社は大忙しだ。
　実家である『水鏡神社』も繁盛しているのだろうが――寝子島神社に住み込みの聖にとっては『寝子島神社』でのこの盛況をしかとこなすのも修行のうちだ。
　目が回ると疲れを見せる表情は、朝方から、これまた繁盛しているであろう露店のゴミで溢れるゴミ袋を回収し新しい物を付け変えてと大変だ。
　神楽舞と交代しながら境内の掃除をしっかりとこなした結果だろうか、まだまだ長い一日をこなすには疲れが滲んでいた。
「大丈夫？　ずっと働き詰めだと、くたびれてしまうわ」
「有難うございます。舞さんも……お疲れじゃないですか？」
　差し出された甘酒にほっと一息つきながら、アルバイトの巫女達を眺めた聖は肩を竦める。
　ここまで繁忙期なのだと九夜山から時々下ってくる狐や銀狐の『しろ』にヘルプを頼みたくもなる。
「しろに助けてもらいたくなっちゃいますね」
「私のぬいぐるみ達にも助けて貰いたいわ」
　くす、と笑みを零す趣味『ぬいぐるみ集め』の舞へと聖は大きく頷いた。

　社務所の奥、休憩室として使っている場所には甘いおまんじゅうやお茶が設置されている。
　程良い糖分と水分の補給は動く上で必要だ。沢山働く上で消費するエネルギーをしっかりと補給するには手軽なのだと落ち付く暇なくぱくりと頬張った。
　戻ればおみくじや御守りの補充や販売が待っている。
　様々な想いを抱えた人々へ、その想いが善き方向になる様にと祈ることも巫女としての立派なお仕事だ。
　一年に一回の大切な行事――キチンと終わらせたいと、元日の賑わいを遠巻きに聞きお茶を啜った。

　

「すみません」
　掛かった声に「はい！」と声を発し「舞さん、私が行きますね」と聖は声をかけた。

　――皆さんに神様のご利益がありますように……。
　――あと、お三夜様のご利益もありますように……。
　――神様とお三夜様にもいいことがありますように……。

「落神さまやお三夜様に会った事があるので、こんな気持ちになってしまいますね」
　小さく唇に笑みを乗せ、勤務に戻った聖はもうひと頑張りだと大きな伸びをした。

『大吉』という文字を見れば心も躍る。恋愛の項もどうにも喜ばしい事が記載されていた。
　からん、と下駄鳴らし喜びながらその一面を眺めた時子は傍らでゆっくりと御神籤を開いた尚輝をちらりと見遣る。
「大吉でした。尚輝先生は？」
「――……『中吉』ですね」
　勉学の項には『あまり熱中し過ぎず周囲を見るが吉』と何とも彼には難しい神のお告げがひとつ。
　どうしたものかなと頭を掻いた尚輝へと時子は小さく笑みを零し「枝に結びませんか」と誘いをかけた。
　いつの間にか止んだ雪に、残された寒さに僅かに身震いを見せる。
　背の低い時子にとって、御神籤を結んだ場所は沢山の人間がいたのだろう。尚輝のように少々上に結べば場所もあるのだろうが。
「背が高くなる様にお願いすればよかったでしょうか？」
「よければ、結びましょうか。……御巫さんはそのままが可愛らしいですよ」
　無理に伸びなくてもと告げられた言葉に笑みが少々のぎこちなさを感じる。

　結んだ枝から視線を逸らし、甘酒を貰いましょうかと彼を手招けば、酒に弱い尚輝は少々困り顔で「これが丁度良いんですよね」と肩を竦めた。
「尚輝先生は何をお願いされましたか？」
「新しい試薬も使ってみたいですし、ああ、実験器具も欲しいな、と」
　あとは、と繋がる言葉に化学実験の事を繰り返し口にする尚輝らしいと時子は小さく笑みを零す。
「御巫さんこそ。何をお願いしましたか？」
「そうですね。私は去年の感謝や今年も出会いが多い年になればと願いました」
　恋愛については秘密だと、唇に含めた『内緒』に気付かない彼はいい願いですね、と何処か柔らかに口元を綻ばせて見せた。