【お正月】寝子島神社に願いを込めて｜リアクション

【お正月】寝子島神社に願いを込めて

　内側を水色の染めた長い黒髪。三日月のピアスで神秘的な巫女の装いをした千歳飴楓子は気怠げな雰囲気で眠気眼を瞬かせる。
（そういえば、正月ガチャでレア排出があった気がするが……）
　スマホゲーの正月ガチャを気にしながら御神籤売り場で短期アルバイト。
　繁忙期だけの募集に『軍資金』ことゲーム課金用の資金稼ぎに繰り出した楓子は表情を崩さぬまま、脳内で課金額を分けていた。
（推しのカードが出ていたらどうするかな……）
　表情は少しばかり緩んだ気がするが、真顔で課金をする『課金は蜜』を信条とした彼女に何の迷いもない。
「千歳飴さん、もうすぐ交代の時間ですよー」
　お疲れ様と他の巫女から掛けられた声に「ああ、お疲れ様だ」と小さな会釈を返してアルバイトの終了の後、帰宅(及び、課金)しようかと考えた楓子の背に掛かったのは明るい少年の声だった。

　

　時刻は少し遡って――
　３人の姉によって「初詣にいきなさい」「神様に挨拶してくるのよ」「キチンとした恰好で」と寝正月を謳歌する立花なつは寝子島神社へと向かうことになった。
　明るい金の髪に、鮮やかな緑の瞳はやや気怠げだ。機械音痴故に、あまり使う事の無い携帯電話の充電が切れている事に気づき「……？　あれ、壊れちゃった～……？」と首を傾いだのはつい先ほどの話しだ。
　折角の初詣。御神籤でも引いて帰ろうかと社務所へ向かったなつの視界に入ったのは巫女姿の楓子だった。
　そして時系列は先程の楓子と合致する。
　丁度、楓子にとっても本日のシフトで最後の客になったなつは常と変わらぬ人好きする笑みを浮かべている。
「あけましておめでとう～。新年からバイト？　かーちゃんって巫女服すごい似合うね～。かわいいよ」
「おお。なつ氏か。あけましておめでとう」
　カウンター越しの言葉に楓子は「相変わらず口が軽いな」と彼の言葉をあしらう。
「おみくじおねがいしま～す」と楽しげに掛けられた声音に頷いて楓子はなつの手にした棒を受け取って、該当する番号の棚から紙を引き抜いた。
　結果は、と問い掛けた楓子に緊張した面立ちのなつの表情は見る見るうちに落胆の色に変わってゆく。

　『凶』

「凶……」
「ふむ」
　二人揃ってじ、と結果を見詰めれば、なつは「巫女さんはお祓いとかしてくれないの？」と冗句めかして楓子へと告げる。
「お祓い、か。残念だが短期アルバイトでは難しいな」
　淡々とあしらう楓子の背中へと御鏡聖の「時間ですよね。交代しましょうか」と優しく声をかけた。
　巫女歴も長い『水鏡神社』宮司の娘、聖は今日のシフトを終える時間だと気付いていたのだろう。
　楓子を労る様に差し出した甘酒は、なつの分も用意されていた。
「お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ。――と、言うわけだ。バイトも終わる頃なんだ。よければ一緒に露店巡りでもどうだ？」
　甘酒に礼を言い、場所を交代する際に、なつへとかけた誘いは彼の嬉しそうな笑顔で了承された。