【お正月】寝子島神社に願いを込めて｜リアクション

【お正月】寝子島神社に願いを込めて

　来る、新年――！

　長い黒髪を結わえ、この日の為と用意した晴れ着に身を包んだ篠原翠響は姿見の前でくるりとターンをひとつ。
　いつもよりも大人っぽく見える自分の装いに、惚れ惚れとしたように「我ながらステキじゃない……」と呟いた。シーサイドタウンのマンションから徒歩で向かうはシーサイドタウン駅。
　中学の友人はめかしつ行けた翠響を見るなり「おしゃれしちゃって」と楽しげに笑みを浮かべた。
　やはり中学生ともなれば現代っ子。寝子島駅へ向かう道中も話しが尽きず、学校の話から、クラブやゲームセンターの話しまで広がってゆく。
　アナウンスで次が寝子島駅だと告げられて、ゆっくりと立ち上がった足元でからんと下駄が鳴った。

「今日の服、凄い可愛いよね」
「えー、その着物のがいいよー？」
　ホントに？と他愛もない会話を重ねながら鳥居の見れる位置で記念撮影。携帯電話に保存した画像は中学二年生の等身大の少女達が写っている。
「よければ一枚いいですかー？」
　新聞部ですと制服姿の椿美咲紀がカメラを手に歩み寄ってくる。
　輝く笑みを浮かべ、楽しげなグループの写真をぱしゃりと一枚。今日はどんな御関係で！と取材する新聞部は寝子高新聞の記事にすると張り切り楽しげに翠響達を見送った。

　この日の為に用意したという洋服と晴れ着の華麗さはやはり、少女同士気になるものだ。
　髪飾りが可愛いだとか、その靴もいいね、だとか、制服を脱げば女の子は『カワイイ』の虜になってゆく。
「あ、タコ焼き」
　見てみて、と指差す友人に誘われて、たこ焼きに綿飴と食べ物を確保してゆく。
　出来たての商品群は何とも言えぬ味わいを与え満足げに翠響は頬張った。
　道中のくじ引きではサンマ型の謎の人形をもらえたり射的ではファンシーなくまのぬいぐるみが難敵だったり。
　話題は尽きず、盛り上がりも欠ける事がない。
　グループで初詣というのはやはり楽しい。教室の外でも楽しげに語らうのもまた一興だ。
　黙っていれば優等生な翠響なのだろうが、年相応の女の子。テンションだって上がっていくし、笑みだって零れてゆく。
　長時間並ぶことだって苦ではないと何を祈るかと友人同士で語りあった。

　ちゃりん、と乾いた音を立てて落ちる五円玉を眺めた後、手を合わせ願い事を深く、深く考える。
　頭の中に浮かぶのはイリヤ・ジュラヴリョフの事で。
　思慮深い一つ年上の少年の事を願わずにはいられないと彼女は目を伏せる。

（……あたし、何だかちょっと変だよね……でも、好きなんだもの……仕方ないじゃない）

　我が道を往く、堂々とした彼女のマイペースさに落とした影は、恋心。
　憂いを帯びた瞳は、初めての恋に戸惑う様に――ゆっくりと揺れ動いた。
　手にした『中吉』に書かれた己で動けという恋愛の指南。くしゃりと握りながら、素直な想いを飲みこんで白い息を吐きだした。