お注射のお時間です！｜リアクション

お注射のお時間です！

【その看護師、清楚】

　御巫時子は、看護師になりきっていた。
　彼女は「らっ倫」病院においては数少ない清楚系看護師だった。
　だいたいがピンクのナースで、ときおり、男のナースも混じっていたりするこの病院であるが、時子はおっとりとした笑顔が素敵な白衣の天使であった。
　とはいえ、
（世の中には色々なお医者様がいらっしゃるのですね）
　と、残念系女医城山水樹の超絶医療行為をスルーするあたり、おっとり過ぎるのもどうかとは思う。
（でも、このままではこの病院に来る患者さんがゼロになってしまいそうですし、次からは私が積極的に行動しましょう）
　時子は静かにそう決意した。
「では、次は五十嵐さん、五十嵐尚輝さん。第四診察室へどうぞ」
　そこまで言い終えてから、
「え……？」
　と、時子は目を瞬かせる。五十嵐尚輝は、この「らっ倫」病院に務める医者だった。時子にとっては同じ職場に務める、ちょっと気になる男性でもある。
「……どうも」
　扉を開けて、尚輝が診察室に入ってきた。
「……尚輝さん、いったい今日はどうされたんですか？」
　時子は慌てて、尚輝に駆け寄ると椅子を引いて、彼を丁寧に座らせた。
「……ええ。なんだか頭がボーっとして……」
「それは風邪ね。よし、お注射しましょう」
　尚輝の言葉に、水樹はキリッとそう断言し、ドデカい注射器を取り出す。
「……！？」
　尚輝の肩がびくっと震えた。その注射器はおよそ人間に注射していい大きさではなかった。
「城山先生。お注射は私がしておきますから」
　怯える尚輝と水樹の間に割って入るようにして、時子が微笑みながら言った。
「あら、そう？」
「はい。先生は少しお休みになっていてください」
　そう言って、時子は尚輝の手を優しく握ると、注射用のスペースに誘導して椅子に座らせる。
「……尚輝さん、大丈夫です。怖くありませんよ」
　すっかり怯えてしまっている尚輝の目の高さまで身体を屈ませて、優しく教え諭すように言う。
「……は、はい」
　と、ぎこちなく頷いた尚輝の表情はいくぶん和らいでいるように見えた。
　前屈みになったせいで、強調された時子の胸に目を奪われたことも恐怖を取り除いた一因であったかもしれない。もっとも時子はその視線に気づくこともなければ、意識してそんな体勢をとっているわけでもなかったが。
「それじゃあお注射をします。もちろん普通の大きさですから安心してください。ちょっとチクっとしますけど、すぐに終わりますからね」
　時子は柔らかい笑みを浮かべてそう言うと、アルコールで消毒した尚輝の腕に注射針をそっと刺した。
　もともと手先が器用な彼女であるから、その痛みはほとんどなかった。

「……はい、終わりましたよ。あとは栄養をしっかり取って、よく眠れば大丈夫です。お薬のかわりに栄養たっぷりのお弁当をお出ししておきますね」

　にっこり笑ってそう言って、時子は尚輝の診療を終えたのだった。

このページにイラストを設定する