せんせいといっしょ：桐島先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：桐島先生編

　桐島義弘先生の密かな受難は続いていく。
「あれ……先生、ズボン……」
「っ……！」
　宮祀智瑜は気付いていない。
　そのズボンの悲劇の原因が自分に有るということに。
　ぎゅっと義弘を抱きしめたまま、智瑜はそっと囁く。
「あの…先生、ズボン脱いでもらえますか？」
「……それよりも、宮祀。離れて貰えないか」
　冷静に、冷静に。
　もはや、暗示に近かった。
「えっ？　きゃっ、ごめんなさいっ」
　ぱっと離れて、また顔を赤らめる。
「あ、そうだ義弘先生、助けて下さって有難うございました！」
　もう一度お礼と謝罪をするが、尻の悲劇にまだ自覚はない様子。
「義弘先生、こっちに来て下さい」
　その手をとって、こっそりひと目のつかない所へ誘導する。
　智瑜は以前義弘のズボンが破けた事件を噂で聞いていた。
　それからずっと持ち歩いているのが携帯ソーイングセット。恋する乙女の必需品である！
　先生が恥ずかしい想いをしないようにと、心は真っ直ぐなのだが、やはり気付いては居ない様子。

「脱がなくてはならないか？」
　流石に一日に二度も脱ぐのは躊躇われるというもの。
「私は、はいたままでも繕えますよ。おばあちゃんから裁縫を教えてもらってるので得意なんです」
「しかし、女生徒に尻を向けるというのもなかなか卑猥な図だとは思うのだが、先生にはそんな趣味が？」
　スケッチをしていた旅鴉月詠が興味ありげに覗きこみ、けれど淡々と告げた。
「あるかっ！！！」
「あ、先生が気にされるのであれば上着を巻いて置くのはどうでしょう？」
「う……うむ」
「それでも気になるのならば、このスケッチブックもお役に立てよう」
　隠すのに――ということらしい。
「……いや、気持ちだけで構わん」
　いたたまれず、丁重にお断りした。

　暫しの時間が流れ、ズボンの破れは驚くくらい綺麗に修復され返却される。
「どうでしょうか……？」
「ああ、問題は無さそうだ」
「お役に立てて嬉しいです。あ、そうです」
　――もしまたあれば直しますね、とそっと囁いた。
　出来ればそんな次がないことを祈る義弘。

「では私はそろそろ帰り……きゃっ」
「危ない……！」
　
　受難はもう少し続くのかもしれない。

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