自宅警備令！｜リアクション

自宅警備令！

「おいテオ、外に出られないと材料が買えないんだけど……」
御剣刀の呟きが、部屋に虚しく響く。もちろん、テオはそれには答えない。警告はするけれど、その後は管轄外だ。
慌てて冷蔵庫を確認する刀。
しかし、なんということか。冷蔵庫の中には、マヨネーズ他調味料しかないではないか！
「ご飯の材料、もうないんだけど……」
胃袋の底までずんと重くなるような絶望が、刀に襲いかかる。ふっと身体から力が抜け、冷蔵庫の前に膝をついてしまう。
ぐぎゅるるるるるるるるるる、と刀の胃袋が鳴き始めた。
「ヤバい、考えたら腹減ってきた……」
だがしかし、材料を買いに行くことはできない。一体どうすればいいのか。
こうなったら、何だっていいからお腹を満たすしか無い。蛇口をひねって水を、
「……何で出ないの！？」
出ない。
台所の蛇口から、水が、一滴も、出ない。
「おい、これどういう事だよ！」
頭を抱えて叫ぶ――と、ぐぎゅるるるるるるるるるるるるとさらに大きく腹が鳴った。
誤魔化そうとすること全てが潰されると、更に腹が減ってきてしまう。
こうなったら、この騒動がおさまるまで寝よう。
――と、布団に潜ってみるけれど。
「……眠れねえ」
ぐるぐるとお腹が鳴り続けて、とてもじゃないが寝られる状態じゃあない。
人間、お腹が空いた状態ではそうそう寝られるものではないのだ。
他になにか手はないか、と空きっ腹で必死に考える刀。
うるさいくらいの腹の音と闘いながら考え続けて、
「そうだ、筋トレ！」
筋トレで身体を動かせば、空腹もごまかせるんじゃあないか。
そうと決まれば、とまず腕立て伏せから始めることにする。空腹なせいでいかんせん身体に力が入りきらないが、それでも気合を入れてどうにかまず一回。
それからゆっくりと、二回、三回。
「……おっ、これは意外といけるか？」
四回、五回と繰り返すたび、少しずつ空腹感が消えていくのを感じる。
いける、これでいけるぞ！

――と、思っていた時期が刀にもありました。
結局、動けばカロリーを消費するのだ。
カロリーを消費すれば、栄養補給したいと更に腹が減ってくるわけで。
腹筋五十回目くらいで、もう限界だった。
「……あー、どうしよう」
どうやって我慢しよう、これもう無理じゃね？
もう外に出て異世界に行っちゃえばよくね？　きっと異世界には、ここにないご飯あるよ！
空腹の余りぐるぐるしてくる視界の中、刀はふらふらと玄関に歩き出す。
と、そこで聞き覚えのある声がした。
毎日神社の境内で、一緒に剣術の練習をしている女の子の声だ。
ごくり、と溢れだしたよだれを飲み込む。
「……あいつが作る朝ごはんの弁当、美味しいんだよな～。外に出ちゃおっかな～」
もう辛抱たまらん、とばかりに飢えた目つきで扉に手をかける刀。
しかし、そこでその友人に叱られる場面が不意に浮かんだ。
更にもう一人の友人も出てきて、悲しそうな顔でこっちを見ている。
しばらく刀は、扉に手をかけたままで固まっていたけれど。
「……ハイごめんなさい我慢します、ハイ精神修業ですね」
力なく、半ば崩れ落ちるような格好でその場に正座したのだった。

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