自宅警備令！｜リアクション

自宅警備令！

どうしてこうなった、と水守流は思う。
食事を摂るために、女子寮にある食堂へ向かったはずだった。
しかし、そこでばったりと出くわした本居陽毬に、「借りていたノートを返すから」と強引に部屋まで連れてこられてしまったのだ。
よりにもよってそのタイミングで、テオから「部屋から出るな」のお達しが。
いや、女子の部屋で二人っきりというシチュは男としては美味しい。美味しいのだけれども、流石に色々まずいと思っ、
「くしゅん」
陽毬が、可愛らしいくしゃみをした。
「おいおい、大丈夫か。……そういや、なんか寒くないか？」
「暖房はつけてたはずなんだ、け……ど……？」
よくよく見てみると、エアコンの電源が切れている。何かの拍子にリモコンにあたって、切ってしまったのだろうか。
かち、かち、と。陽毬はリモコンを操作するけれど、小さな音を立てるばかりで一向に反応する様子がない。ということは、つまり。
「暖房壊れてるじゃないですかあああやだあああ！」
「おいおい、この時期に暖房の故障かよ……」
泣きそうな顔になる陽毬と、マジかよとうめく流。
「とりあえず本居、風邪引かないように着込んで」
うん、とうなずく陽毬だけれど――。

（これだと私は暖かいけど、水守君は寒いままだよね）
ふと、そんなことに気付いてしまった。
部屋からは出られないし、だけども流に風邪は引かせられないし。
かくなる上は――
ぴと、っと。陽毬は流の腕にぴったりくっついた。
「なぜくっつく！？」
ちょっと変にうわずった声で、流が反射的に横にずれて距離を取る。けれども、陽毬はそれにあわせて自分もずれた。
「これでどっちも暖かいよ！」
触れ合った腕から服越しでも体温が伝わってきて、暖房がなくても暖かい。
そんな風にぬくぬくしている陽毬とは対照的に、
「いやいやいや、確かに寒い時にくっつくってのはテンプレだが、もっとこう……な！？」
流の方はなんだか顔を赤くして慌てていた。

そりゃあ、流も健全な男子高校生である。
女の子が隣にぴったりくっついているこの状況、美味しいとは思うけど、思うけれどそれ以上になんだか緊張してしまう。
隣から伝わってくる体温に、髪からふわりと漂って鼻をくすぐるシャンプーの香り。
それにこう、隣に視線を向けると思いの外に豊かな膨らみがあったりして。
きっと、今の自分は顔が多少なりとて赤くなっているのだと思う。
それを悟られたくはなくて、手で口元を覆い隠そうとした――その時。
ぐらっ、と身体が揺れた。いや、揺れているのは身体だけじゃない。部屋全体が揺れている！
「わわっ、地震だよ水守くん！」
「かなり強いな――って」
棚の上にあった時計が、ぐらりと傾くのが流の視界に映った。
それはちょうど、陽毬にあたってしまいそうで――。
「危な――うわわ！？」
ごん、と背中に時計が当たる感触。それから、どさりと倒れる音。
「…………大丈夫か？」
「…………うん」
「ならよかっ……た？」
最初に気付いたは、吐息が近いということだった。
次に、茶色の猫目がぱちくりと自分を見上げていること。
そして、図らずも自分が陽毬を押し倒すような格好で倒れていること。
かぁぁっと顔が熱くなるのを感じて、慌てて跳ね起きる。
「あ、わ、わざとじゃないぞ！？」

「……こういうことって本当に起こるもんなんだなぁ」
慌てる流とは対照的に、陽毬は我が身に起きた少女漫画的展開にただただ感心するばかり。
そんななかで、流のポケットから何かがはみ出しているのに気付く。
「水守君、それ何？」
「え！？　あ、ああ……ぺっかりにゃんチョコだよ」
と、そこで見計らっていたかのように二人のお腹がきゅうと鳴る。
「そういや飯前だったから、腹減ってきたな……」
「ごめんね、私の部屋には備蓄なんてないんだ……」
せめて食堂でご飯を食べてからにすればよかった、と今更になって思う陽毬だがもう遅い。
悲しみのせいだろうか、再びお腹が哀しく鳴いた。
「……しょうがねぇ、このぺっかりにゃんチョコを半分こするか……ってうばうのはやっ！？」
流が言い切る前に、遠慮なく半分頂く陽毬であった。空腹故致し方なし！
「私の食糧は私のもの！　水守君の食糧も私のもの！」
半分になったぺっかりにゃんチョコをかじりながら、ふと陽毬は思う。
（……あれ？　こんな会話、前にも交わした気が……？）

――それから、全部が済んだ後。
一人に戻った部屋で、大胆なことをやらかした自分に気付いてもだえる陽毬の姿があったとかなんとか。

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