自宅警備令！｜リアクション

自宅警備令！

「ふむ、外界に繋がる扉を開けなければオーケー？」
テオの話を聴き終えるなり、旅鴉月詠はアトリエ内の機能の点検を始めた。
アトリエ内の食料庫を確認――食料、ある。
馬鈴薯にミンチに玉ねぎに、今日一日くらいならどうとでもなる量がちゃんとある。
もちろん水もある。
明かりはマッチとカラーキャンドル。これで停電しても問題ない。
ガスもちゃんと通っているし、ガスコンロもある。
それに一番重要な、トイレもちゃんと使えることを確認した。
「うん、アトリエが独立できるような機能をしてて良かった」
これでなんとかなるだろう、と一安心したせいかだろうか。くぅ、とほんの小さくお腹が鳴った。
幸い、自炊できる環境は整っている。まあ、乾パンでも別にいいんだけれども。
さっき確認した食料庫の中身を思い返し、考える事少し。
「今日はコロッケにしよう」
……台風じゃないけれど。

馬鈴薯をボウルに入れて潰したら、玉葱をみじん切りにして細かく刻む。
「む――あいたっ」
不意に、あたりが真っ暗になる。包丁を扱う手元が少しだけ狂って、指先を浅くだが切ってしまった。
暗闇の中、指の腹をつーっと血が伝っていくのがわかる。
こう暗いと、絆創膏を探すのにも難儀する。ので、先にキャンドルを点けることにした。
流石に、血が付いたままの手で料理はできない。
「血が点かないようにすると……なかなか、難しい……なっ」
苦心しながらもマッチをすって、キャンドルに火を点ける。
柔らかいオレンジ色の光が、少し頼りないながらも辺りを照らした。
絆創膏もつけ、料理を再開。停電は相変わらずだが、火は使える。
慎重にミンチを炒め、刻んだ玉葱と馬鈴薯に混ぜて小判型に。それから小麦粉、卵、パン粉をつければ、あとは揚げるだけだ。
ジュウーッ、と油でコロッケが揚がる音が、暗い部屋の中に響く。
揚げ具合が偏らないよう、菜箸で時々ひっくり返す月詠。その姿は、部屋のせいもあってかなんだかとっても魔女っぽい。
「シチューだったらもっとそれっぽかったか」
などとぼやきながら、揚げ具合をよーく確認する。
多少焦げているような気もするが、暗いし仕方あるまい。
コロッケがあがったら、あとは食べるだけ。
キャンドルの明かりがあるせいで、少々儀式っぽい雰囲気がある。
さしずめ、コロッケが供物といったところか。

――食事が済んでも、停電は相変わらず。
絵を描くにも不便なので、ちくちくと編みぐるみを作ることにした。
なんとはなしに始めたから、特にこれといって案もない。
ちょっと考えて
「……マンボウにするか」
観光大使見習いこと浜マンボウくんの編みぐるみを作ることにした。
そうして、ちくちくとマンボウくんを編んでいく。
やがて最初の一個が完成した時、不意に部屋の中が明るくなった。
「電気が復旧したか……？」
見上げてみるが、電気は相変わらず消えたまま。それによくよく考えてみると、明らかに電気のそれとは違うタイプの明るさだ。
そう、それこそ今目の前にあるキャンドルのような。
……キャンドルのような？
もしや、と背後の窓を振り返る。

「……うーん、燃えてますな」

見事なくらいの火事であった。
流石にこれはまずいのではないだろうか、という気になってくる。
窓を開けて状況を確認くらいはしておきたい、気がする。
するけれど、しかし落ち着け私。
部屋が燃えてないことを見るに、多分アトリエは大丈夫だろう。きっと、おそらく、メイビー。
どういうものかは気になるが、窓は開けない開けてはいけない。

明るくなったし、とりあえず編みぐるみを量産することにした。