自宅警備令！｜リアクション

自宅警備令！

テオの話を聴き終えた椿美咲紀は、どういうわけだか目を輝かせていた。
「合法的（？）におさぼりできますね！」
なるほど確かに、外に出ちゃいけないのならそういうことにもなる。
なんせ今は冬真っ盛り。外に出なくていいのなら、もうずっとオフトゥンの中でぬくぬくしていたい。
すぐにも引っ返して、美咲紀は布団の中に潜り込んだ。まだ眠っていた時の熱が残っていて、素晴らしく暖かい。
「はー、ぬくぬくなのです。素晴らしいです」
布団の中でごろごろと転がって、外に出なくてもいい日の幸せを噛みしめる美咲紀。
ふにゃふにゃと幸せにとろけた顔で満喫しているうちに、気づけば美咲紀は眠りに落ちてしまっていった。

「ふにゃ……？」
耳朶をうつなにやら激しい音で、美咲紀は目を覚ます。
眠い目をこすりこすりしていた彼女だったが、
「はれ、この音、って……――！」
気付いた途端、心臓がひっくり返るような心地がした。あわててカーテンを開け放ち、窓の外を見やる。
なんと窓の向こうには、滝のような激しい雨が降り注いでいた。
「わ、私の庭は大丈夫なのです！？」
さっきまでの幸せ気分はどこへやら、真っ青になって窓にへばりつく美咲紀。
しかしあまりに激しすぎる大雨は、窓の向こうを真っ白に染め上げていて何も見させてはくれない。
どう考えても、大切な花や野菜達がヤバイ。さーっと、血の気が引いていくのが自分でもよくわかった。
「お、お花とお野菜は無事なのですか！？」
今すぐにでもビニールシートなりなんなりかけてあげないと、こんな強い雨じゃ全滅必至だ。
こんな時に限って、雨合羽がすぐ見つからない。
「どこ！？　どこなのです！？　――あったのです！」
ようやく引っ張りだしたと思ったら、ビニールが変に固まっていてなかなかうまくいかない。
ばさばさ振って雨合羽をなんとか広げ、袖に腕をひっかけたりしてもたつきながらも羽織り、玄関に向かう美咲紀。
しかし、玄関のドアノブに手をかけた時。
『いいか、今日は外に出るんじゃねえ。外に出ると、異世界に放り出されちまうだろう』
テオの警告がリフレインしてたたらを踏んだ。
「そ、そうでした今日はお外に出ちゃいけないのです。でもでも、私の庭が……」
窓の向こうでは、相変わらずこの世の終わりのような勢いの雨がまだ振り続けている。
というか、それよりも。
外に出た途端、死亡フラグの定番であるところの『台風の時「ちょっと畑の様子を見てくる」で流され死亡』になってしまうかもしれない。
なんせ、庭すらよく見えない程なのだ。「バケツをひっくり返したような」どころではない。
ニュースで自分の死亡が報道されるところまで想像してしまい、もう足がすくんで外に出るどころではなかった。
諦めがすーっと心の内に広がっていく。
しばらく玄関でぼーっとしていた美咲紀だったが、ふと思い立って窓越しに動画を撮ることにした。
「真っ白で何も見えません凄い雨です！」と実況も入れて。
激しすぎる自然現象の前には、人間なんて無力なのだ。
「これ、庭はもう駄目です……」
誘惑には勝てたけれども、そのかわりに深く傷を負うことになったしまった美咲紀だった。