月見のお茶会｜リアクション

月見のお茶会

「そうだ。これ」
　お茶会がお開きになって、送ってくれた家の前での別れ際。陽太はふと思い出したように、ポケットから取り出した。
「朱乃ちゃん、手ぇ出して」
「？　はい」
　言われるまま、おわんにして出した朱乃の手に、陽太は透明なセロファンの包みを乗せた。
　リボンのかかったそれには、ころころとしたかわいらしい真珠飴が入っている。
「先輩、これ……」朱乃は驚きに目を見開いたまま、陽太を見上げた。「もらっちゃっていいんですか？」
　そのまんまるな目を見返して、陽太は「うん」とうなずいた。
「きょうは一緒してくれて楽しかったー。
　これ、おいしかったから食べてー♪ 」
　陽太の言葉に、朱乃はもう一度手のなかの飴に目を落とす。
「ありがとうございます……。私、何も用意してなくてすみません」
「うんにゃあ。いーんだよー。俺があげたかっただけだからー」
「あの、先輩っ！」
　「じゃあね。また今度」と手を振って去ろうとした陽太を、朱乃は衝動的に呼び止めていた。
「んんっ？」
　振り返り、問いかけるように首を傾げる陽太の前、朱乃はぱっと下を向いてしまう。
「なに？　朱乃ちゃん」
　いつまでもこうしてはいられない。無邪気な陽太の声に、朱乃は意を決して面を上げて陽太と視線を合わせた。
「……この飴のお返しがしたいので、また会ってくれますか？」
　そして開いた陽太の唇に、人差し指をあてた。
「答えは「イエス」しか聞きませんから」

　ここぞとばかりに浮かべた朱乃の笑みが輝いて見えたのは、満月の光に照らされていたからだろうか？

　月の光は不思議と、人心を惹きつける。
「すっかり遅くなってしまったな」
　西の空へだいぶ傾いた大きな月を見上げて、刀は白い息を吐き出しながらつぶやく。
「でも、あっという間だった」
　それは楽しかったからだ。
「おまえも楽しかったか？」
　腕に抱いたルヴィアに問いかける。返事はない。だけど、月に照らされたルヴィアを見ているうち、その光に乗って、彼女の思いが伝わってくる気がした。
「また行こう。今度は、おまえのために」
　かたん、と首が傾いて、刀の腕に寄り添った気がした。まるで感謝の気持ちを示すように。
　そう見えたのは、錯覚だろうか。
　無言でルヴィアを見つめているうち、錯覚でもいいと思った。
　いつしか口元には満足の笑みが浮かんでいる。
　いつになく満たされた思いはその後しばらく刀のなかに留まって、やわらかな月の光を飲み込んだように彼の胸をあたためてくれていた。

≪月見のお茶会・了≫

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：寺岡志乃
ファンレターはマスターページから！

　こんにちは、またははじめまして、寺岡といいます。
　当シナリオにご参加いただきまして、ありがとうございました。

　公開をお待たせしてすみませんでした。
　１２月の夜に月見てお茶会という、かなり時季はずれな内容で、どうかと実はどきどきしていたのですが
　たくさんの方におつきあいいただけてうれしかったです。

　それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
　次回もお会いできたらとてもうれしいです。
　もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいな、と思います。

　それでは。また。

↑ページトップに戻る