迷惑な客の多い料理店｜リアクション

迷惑な客の多い料理店

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　路地裏に立つ人々がいる。
　一方は二人。ゴツい男とすらりとした女。蛇那伊とアリサだ。
　そしてもう一方は六人と数で優位な不良学生たち。
「んー……」
　不良学生たちの様子から、誰がリーダー役か見つけようとしていたアリサだったが、彼女は溜息をつくと頭を振った。
「ダメね。あいつら徒党を組んでるだけでリーダーなんていないみたい」
　もしリーダーがいるようだったらまず頭を潰して戦意喪失を狙えたのだが、どうやらそれも難しいようだ。
「良いじゃないの。それってつまりは烏合の衆ってことでしょ？」
　不敵に笑い、蛇那伊が構える。それもそうね、とアリサも黒い長髪を掻き上げて笑った。
「行くぞオラァッ！」
　オオッ、と気炎を上げて不良学生たちが路地裏を駆ける。
　彼らの狙いは単純に過ぎる程にわかりやすかった。アリサである。
「まずは弱そうな奴からご退場願うのが基本だよなァ！」
「あら、人を見た目だけで判断しちゃダメよ？」
　す、とアリサが構えるのは空手に似た構えである。武道に覚えがあるらしい不良学生の一人が一笑と共に掴みかかろうと襲いかかる。
伸ばした手から痛みが走っていた。アリサは相手の動きを読み切った上で、それを鋭い一撃で打ち落としていた。
　苦悶の声を上げる不良。その隙を逃すアリサではない。相手が重心を落としていた右足に蹴りを食らわせて体勢を崩し、そこへ容赦のない追撃を加える。
「なんだこの女、強ぇぞ！？」
「子供の頃、おじいちゃんに沖縄空手叩きこまれたのよ。……いい、人を見た目だけで判断しちゃダメよ？」
　ふふ、と笑うアリサは、今しがた大の男を一人のしたとは思えない程に妖艶だった。
「クソッ、やっちまえ！」
　二人がかりで襲い掛かってくる不良たち相手に、ハ、とアリサは鼻で笑う。
「へぇ、か弱い女に大の男が二人がかり？」
　アリさはあくまで余裕の表情で攻撃を受け止め、受け流し、一撃をそれぞれの鳩尾や首元などの正中線へと次々に叩き入れて倒してしまう。
「ゲスな上にこれで負けるとかどんだけザコなのよ」
　地に伏せた不良たちに吐き捨てるように言って、アリサは呆れたように吐息した。
　――その一方で、巨漢は三人の男に囲まれていた。
「へへ、見せかけだけの野郎が三人相手に勝てっこねえよ」
「それはどうかしらね？」
　蛇那伊がゆっくりと構えを取る。何かを抱えるように両肘を曲げ、脚をクロスさせた到底武道に通ずるとは思えないような奇怪な構え――そう、バレエのアン・ナバンである。
　じわじわと間合いを詰める不良たち。徐々に包囲の輪を狭め、そして一斉に飛び掛かる。三方向からの一斉攻撃である。
「甘いわよ！」
　三方向からの攻撃に対して避けることも怯むこともなく、蛇那伊は回転した。ピルエットである。回転による遠心力によって不良たちの攻撃は尽く鋼のような筋肉に弾かれ、身体ごと吹き飛ばされてしまう。
　優雅にポーズを決めてピルエットを終えた蛇那伊はそのまま吹き飛ばされた不良学生の一人を抱え上げる。
「よいしょっとぉ！」
　野太い掛け声と共に蛇那伊は抱え上げた不良をまるで投槍のように不良たちのところへと投げつけてしまう。差し詰め人間ジャベリンとでも呼ぶべきこれを、不良たちはまともに食らってしまった。
　地に手をつき、膝をついた不良学生たちの前に、ざ、とアリサが立つ。
「良い？　場所にはね、ルールってものがあるのよ。ルールを守らない奴らはその場所にいる資格は無いわ。迷惑をかけるなら出てって頂戴」
「もしもまた来るようなら、あたしは何度でも相手するわよ！」
　ひぃ、と不良たちは悲鳴を上げ、慌てて立ち上がり、転びそうになりながら走り逃げて行った。
「……さて、一件落着したことだし、お店に戻りましょうか」
　ぱたぱたと服のほこりを払って、二人は店に戻って行った。
　仕事はまだ終わっていない。料理を提供するための客はまだまだいるのだ。

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