迷惑な客の多い料理店｜リアクション

迷惑な客の多い料理店

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「トラットリア・ミチーノが明日の午後から期間限定でお得な割引キャンペーンを実施しまーす！」
　寝子島駅周辺、人気の多い大通り。元気よく笑顔を振りまくウェイトレスがいた。城山水樹だ。
　彼女は店の清掃は任せておいて、簡単な地図やメニューが書かれた自作したチラシを通り掛かる人へと積極的に渡して宣伝していた。
「寒っ……」
　ぴゅう、と吹いてきた冬風に身震いする。ウェイトレスの衣装は店で用意されたアルバイト用のものらしい、が屋内で動くを前提にした衣装であるため、当然のことながら防寒性というものは一切考慮されていなかった。
　さすがの水樹も12月下旬の寒さを舐めているわけではない。外観を損なわない程度には防寒対策はしてきたつもりだ。
　しかし、足りないのだ。布の厚さが。圧倒的に。
「新装開店！　装いも新たになったトラットリア・ミチーノにぜひお越しくださーい！」
　それでもめげずにビラ配りを続けていると、寒空の下でウェイトレス服という出で立ちが目立ったことも手伝ってか、水樹の器量の良さが幸いしたか、存外にチラシは受け取ってくれる人が多かった。
「へえ、こんなところにトラットリアなんてあったんですね」
　受け取ったチラシを見て、そう呟くように言ったのは垂れ目の男だった。
「はい、明日から割引キャンペーンなんですよ」
　男――天動記士郎が食いついたのを好機と見て、水樹はにこやかに言葉を連ねる。
「歴史のある綺麗で落ち着いた雰囲気で、料理もとってもおいしいんです。ぜひいらしてくださいね」
「綺麗で落ち着いたお店ですか。良いですねえ」
　店内の雰囲気を想像したのか、記士郎の表情がほわあぁと緩む。ええ、水樹は相槌を打つ。
「では、明日にでも立ち寄ってみます」
「ありがとうございます。ご来店、お待ちしております」
　楽しみだなぁ、と離れて行く記士郎を、一礼して見送る水樹。
「よし、この調子で……」
　頑張ろう、とビラ配りの続きを再開しようとして、気付いた。ポケットの中。拳ほどの大きさの、少し変わった形のスピーカー。
「あー、そっか。暗くなる前に設置して来ないと……」
　もう十分に宣伝はできただろう。あまり長くやり過ぎても体調にも良くない。そう考えて、水樹は一旦ビラ配りを切り上げて、トラットリア・ミチーノの方へ帰っていった。

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