【前半１　～キックオフ～】

　コイントスの結果、黒猫組が先手となった。
　FWである衣夢と獅子子は黒いゼッケンに身を包みながら、白一色の相手チームを見やった。
「こう見えて体力も結構自信ある。頑張ろう」
「前半は防御重視で戦うっちゅー話じゃけぇ……頑張らんといけんのぅ」
　そう言って気合いを入れる衣夢と獅子子。
　視線の先には白猫組の絵梨菜と望月がいる。
「普段は応援する側だから自分でやるのは楽しみだよっ♪」
「知り合いがいて戦いづらいけど球技大会だからな、手加減はナシだ、頑張ろうぜ」
　というようなやりとりをしながらホイッスルが鳴るのを待っている。
　すっと、ホイッスルを加えた浅井先生の手が上がった瞬間、しーんと会場の音が消えた気がした。
　青空はどこまでも高く、次の瞬間を待っているようにも思える。
　ピーッ！
「黒猫頑張れ－！」
「白猫ファイト－！」
　笛の音とともにわっと声援が舞い上がる。
「私の華麗かつ豪快なサッカーテクニック見せてあげる！」
　笛の音とともに、獅子子とボールをパスしあう衣夢。
　そして、コスプレ衣装に体が負けないよう普段から鍛えている衣夢としては、サッカーをプレイするには問題ない。
　アニメも演劇もすべてが力となって衣夢に協力する。
「楽しまんとのぅ」
　それに続くように獅子子も上がる。
「やらせるかよ！」
　望月が早速ボールを奪いに行くが……。
「パス」
「うむ！」
　衣夢が獅子子へとボールを回す。
「こっちも忘れてもらったら困るよっ！」
　すぐに絵梨菜が追いついてくる。
　グランド中央で早速攻防が始まり、白猫組のMFが援護にと上がってくる。
　一方、獅子子は絵梨菜のスキをつく形で後ろへとパスを回す。
「こっちへ来たか」
　天野がそのボールを受け取ると、すぐに別のMFへとパスを回す。
「……サッカーは、あまり……詳しくは、わからないけど」
　拓郎がパスを受け取る。
　見ればある程度は分かれていたもののだいぶMFとFWが入り交じり始めていた。
　味方の区別はつくが、それぞれマークがつき始めていた。
　英二も月詠にマークされており、やりにくそうだ。
「……すぐに、適応して……る」
　その瞬間、拓郎の目に映ったのは遙か反対側の言嗣だった。
　それを見ると、拓郎はロングパスを放った。
「今のところは上手くいっているようだ」
　双葉は監督の立場からそう見解したが思わぬ襲撃者がいた。
「おっと、甘いな！」
　ものすごいスピードで上がってきた耀。
「そうそう邪魔はさせないよ！」
　しかし、言嗣も負けてはいない、相手の動きを見ながらボールを追う。
「もらった！」
　が、しかし、ここで思いっきり耀がジャンプして言嗣に届く前にヘディングを試みる。
「データ通りとはいえ、手強いね」
　言嗣もすぐさま駆け寄るが、相手の方が一枚上手だった。
「鮫ノ口！」
　そのまま礼二郎がボールをキープする。
　すぐさま天野が奪い返しに走るが……。
「パス！」
「はいよ」
　解理にすぐさまパスが回る。
　基本的に初期位置で守備と味方へのパスに専念というのを頭に置いていた故に、パスしやすい位置へと来ていたのだ。
「……白衣を脱いで本気を出して頑張ろう」
　そう言いつつさらにパスを回す。
　解理がぱっと全体を見回すとすぐさまその弱点を見つけ出した。
　ゆっくりとドリブルしつつ、近くへと戻ってきた月詠へとパスをつなぐ。
　普段よく歩いているという月詠はしっかりとパスを受け取った。
　どうやらさらしも巻いているようで姿勢もいい。
「くっ」
　すぐさま英二が追いかけるが、その前にパスでつながれる。
　ここに来て両チームともパスを回す守備重視のサッカーだということに気づき始めた。
　最初から気づいていた人もいたものの、これは拮抗状態が生まれやすい。
　こういうサッカーは一点が貴重になってくる。
　この場にいる誰もがそう思っても不思議では無い。
「よっしゃぁ！」
　サポートに徹する事にしようと思う。とは試合前の望月の言葉だ。
　その動きは同じFWである絵梨菜を意識したものであった。
　一気にドリブルで上がろうとする望月に、すぐさま獅子子が追従する。
「追いついてみせるけんのぅ！」
「残念、こっちはフェイクだ！」
「むっ」
　すぐさまそのパスは耀に向けて返される。
「そう簡単にはいかないよ」
「と、普通は思うだろう？」
　言嗣のガードに耀は待ってましたと言わんばかりににやりと笑う。
「それっ！」
　その瞬間、パスをトラップせずにそのまま空中に浮いたボールを蹴って絵梨菜へと回す。
「ナイスパスだよ！」
　絵梨菜の元へ運ばれたボールは、そのままドリブルで黒猫組の陣地内部へと侵食する。
「戻った方がいいね」
　天野が察し、黒猫組MF陣を防御に向かわせる。
　それと同時に白猫組の攻勢が始まった。
　黒猫組もDFがすぐに迎撃に向かう。
「あ、あれ……？」
　その絵梨菜と最初にエンカウントしたのは伸幸である。
「そう簡単にはやられないよっ！」
　フェイント混じりにちょこまかと走り回る絵梨菜に、伸幸は翻弄される。
「敵の動きが……やっぱりサッカー部がいると違うね」
　英二は戻りながら全体を把握する。
　白猫組のDF陣もじわりと上がってきているのが見えた。
　また、千鶴が伸幸の援護に向かっているのが見える。
　絵梨菜は、その二人を引きつけたと思ったら後ろにパスを回した。
　ボールは望月に戻る。
「次は俺の出番だ！」
　まじめに勝ちに来る望月……。
「まずいな、後手に回っている」
「大丈夫だ、問題ない」
　鎌八と仄がその言葉を交わし合ってフィールドを見る。
　その望月に真央がすぐさま牽制に走る。
「敵が多い時は近くの敵をマーク、そうでない時は積極的にボールを狙うのだ！」
　そう言いながら、向かうが望月はわざと誰もいない開いたところへとボールを飛ばす。
「よっしゃぁ！」
　そこに弾丸のようにDFたちをくぐり抜けた耀が走り込み、ボールを奪取する。
　このままでは、ゴールに一直線だ……！
「はい、そこでストップよ。早いのは嫌われるわよ？」
　その瞬間、壁が立ちはだかった。
　冷静に動きを分析していた蛇那伊が、耀の目の前に立ちはだかる。
　ちらりと周りを見る耀……味方がついてきてない。
　つまり、この蛇那伊を何とかしなければここは進むも引くもできない状況である。
「さて、どうするかな……」
　そう言って、耀は迷っているフリをする。
「動かないなら……こちらから行くわよぉ！」
　まるで壁が迫るように蛇那伊は動く。
　耀がとっさにスピードを上げようものならガードされるであろうし、後ろに下がろうにも味方は追いついてきていない。
　そのとき、蛇那伊の下半身が大きく開いているように見えた。
「もらった！」
「そ・れ・が、フェイクよ！」
「何っ！」
　次の瞬間、ボールは蛇那伊が奪っていた。
　おぉ、と観客席からもどよめきが起きる。
　説明しよう！
　耀が考えたのは蛇那伊の下半身……まぁ股下にボールを蹴り出して、自分は左右どちらかに大回りしてそのガードを抜けるという方策だった。
　しかし、耀がボールを蹴った瞬間、蛇那伊はぎりぎりまでそれを引きつけ、いきなり足を閉じたのだ。
　ボールは当然反対側へと戻される……耀がとっさに反応しようとするが、勢いよく飛び出した蛇那伊がボールをもぎ取った形になった。
「よし……！」
　修がゴールで確信を得たように頷いた。
「行くわよぉ……っ！」
　どんっという音とともに、ボールが攻めに上がっていた黒猫組のFWの元へ運ばれていく。
「ナイスパス！　このまま華麗に決めるわよ！」
「了解じゃけぇ！」
　仄の前進の指示によりいつの間にか白猫組の方へと食い込んでいた衣夢と獅子子は互いに視線を交わし合うと一気に攻勢に出た。
「ちっ……めんどくせぇ」
　その様子に本音の入り交じったため息をつきつつ、庚は十分な気合いを入れた。
　今現在、ボールは衣夢によってドリブルされていた……。