【大晦日】旧市街の夜と朝｜リアクション

【大晦日】旧市街の夜と朝

【明里、大空へ伝えたい事】

　『九夜山の山頂の頂上展望台』。そこはこの寝子島の中で、最も空に——天界に近い場所だと思う。

　早朝、橘明里は山を登っていた。
　まだ暗く、足元は危なげだったが、今日の日の為に誰かが設置してくれた小さな明かりを頼りに、共に初日の出を目指している人々の存在に鼓舞されて、懸命に一歩一歩を進める。
（ありがとうなのです！）
　見知らぬ誰かに愛を込めて心の中で呟いて、明里は頂上を仰いだ。目指す場所は遠く、まだ見えない。
（あかりはここで頑張っていますなの。
　ドジも踏むけれど、地上のみぃんなも大好きだから）
　湿気で抜かるんだ土に足を取られそうになると、前の人も後ろの人も足を止めてくれた。
「大丈夫？」
　あたたかい言葉をかけられて、明里は「ちひひー」と笑いながら、胸に灯る新しい光を感じていた。
（だから見守っていて欲しいのなの。
　あかりは当分天界に戻るきはないけれど、当分は地上のみぃんなのための天使でいるつもりだけれど）
「頑張ろうね」「もうちょっとだよ」これが『空のみぃんな』に見て欲しいもので、聞いて欲しい声だ。
（天使のための天使だって、いるはずなの。
　だからおねがい、見守っていてほしいのなのなのです）
　うんしょと最後のひと踏みに力を込める。
　急に開けた視界に、展望台が映った。

＊　＊　＊

　
　展望台の中央には、ピラミッド型になったベンチがあった。
　その一番上が、一等空に近い場所だ。
　ベンチに座って朝日を待っている人たちは、皆笑顔だった。誰に話しかけても優しい言葉を返してくれる。
　ふいに二段下に座っている初々しいカップルの掌が重なり合うのが見えて、明里はどうしようもなく幸せになってしまう。
　地平線まで届くほど叫びたい愛が彼女の胸に溢れていた時、太陽が目を覚ました。
　強く、雄大なその光景から、冬の寒さに震える世界を包み込むような、大きな大きな力を感じる。

「あかりもいつか、これくらいは力をはっきしたいのなの」

　誰にでもなくそう口に出した。
（みんなを照らす力。誰にでもわけられる光。そういうものを感じられるようなら、あかりは幸せですなの）
　展望台にいる一人一人の笑顔を胸に刻んで、眼下に広がる島の住民たちを、世界中の人々を想う。
　背中に羽がなくとも、光の輪がなくとも、彼女は皆の幸せを想い、護りたいと願う『守護天使』なのだ。
　明里は新たな一年へ、空へ向かって両手を伸ばした。

（みぃんなが楽しく過ごせるように、がんばっていく予定なのですなの）

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