【大晦日】シーサイドタウンでカウントダウン☆｜リアクション

【大晦日】シーサイドタウンでカウントダウン☆

●今年も、ありがとう
　大晦日の朝、古苗木美姫はいつもより早くに目を覚ました。
（――さて、お掃除をしてしまわないと）
　六時には父が待つ実家へ帰るから、準備をしなければならない。それまでに、この家の事を済ませてしまう必要があるのだ。
　最愛の父がおせちを作って待ってくれているから、この日は帰らないわけには行かない。そして、美姫自身も父に会うのが楽しみだから、帰りたいという思いも強い。
　帰省に持ち帰るには大荷物になってしまうから、愛用の電子チェロとはしばしのお別れになる。
　温室育ちで愛されて育った美姫にとっては、最初は不安な事ばかりで寂しい一人暮らしだったが、このチェロを弾いていると、家族と一緒にいるようで不思議と気が紛れたのだ。
　一人ぼっちの部屋の中でも、チェロがあれば。音を奏でれば、そっと寄り添ってくれる。

（――だから、この子にはとても感謝しています）
　ありがとう、と小さく囁きかけ、チェロを磨く美姫。チェロは、それにこたえるように輝きを増す。
「また来年お会いしましょう」
　いってきますね、と呟き、荷物を持って部屋を出た。
　昼前。いつも寄る喫茶店やケーキ屋さんは、年末休業になっているところも多い。
（あ……Ratonさんはお休みですね……）
　少し、残念。今年最後の営業をしているところはないかな？　そう思い、キョロキョロと見回す。と。和洋菓子店が目に入った。
「ごめんください」
　なんとなく、気が向いたので足を踏み入れてみる。お父さんにお土産を買って行こうかなんて考えながら。
「いらっしゃいませ」
　夢呼・ステイシーがカウンター越しに会釈した。眼鏡の奥の緑色の瞳が細められる。
（高校生……？　でしょうか）
「あ、ええと、焼き菓子の菓子折りをお願いしたいのですが」
「ああ、それじゃあこれなんかおススメですよ」
　彼が指さしたのは、可愛らしいフィナンシェの詰め合わせ。
「わ、可愛いですね。では、これを」
「ありがとうございます、お会計は……」
　手際よくレジを打つ少年。美姫は若いのにえらいなあ、なんてぼんやりと思った。
　手土産を持って、電車の時間まで何をしようか。そう考えた時にはたと思い当たったのは、アルバイト先。
　いつもお世話になっているネコンビの店長に挨拶をして帰ろう。そう思い、足を向けた。
　ネコンビに入るなり店長に今日はシフトは入っていないのではないかと問われ、こくんと頷く。今日はお客さんとしてきたのかと聞かれて、ふふ、と笑った。
　確かに何も買わずに行くのも難だし、電車の中で飲むお茶くらい買って行こう。一本ペットボトルのお茶を取り、美姫はレジに出す。そして。
「今年はお世話になりました」
　まさか、それを言いに来てくれたのかと驚く店長。
　頷く美姫に、店長は朗らかに笑う。
「それでは良いお年を」
　丁寧に美姫が頭を下げると、店長は気を付けて帰るんだよ、と後姿を見送ってくれる。日が落ちるとともにシーサイドタウン駅へ。
　チケットの座席を確認し、座ると列車は定刻にベルを鳴らし、走り出す。
　遠くなっていく寝子島。――故郷に馳せる想い。
　ごとんごとんと列車に揺られ、うつらうつらとうたた寝に入った。
　――新年は家でお父さんと静かに過ごそう。
　寝子島で起きた素敵な事をいっぱい話そう。
　こんなにも毎日が充実しているという事を、伝えたい。
　――来年も、きっと充実した毎日になるって、そう思えるように。

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あとがき

担当マスター：寿ゆかり
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　皆さん思い思いに年末を楽しまれていましたね。ねんまつがつまんね　になっていなくていいなぁって思いました。
　私も年越しは夫の田舎で過ごすのですが、嫁ぐ前より親戚が多くてワイワイしてて楽しいので、そんなイメージも持ちながら書いてましたよ。
　――ところで。
　みかんと蕎麦が食べたくて仕方ないんですけどこれどうしようか。
　
　あと、余談ですが、ほんとに口取りってないの？　ねえ、口取りみんなしらないの？　ねえ！（焦る道民）

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