漆黒の進撃・桜花寮篭城戦！｜リアクション

漆黒の進撃・桜花寮篭城戦！

２日目：午後

　＜男子寮＞

　尾鎌蛇那伊は引き続き光の番をつづけていた。彼は、照明のジャマになりそうな物を別の場所に移動させ、なるだけ影を作らないよう心がけていた。
（物の運搬は、それだけで鍛錬になるのよね）
　手持ちが無いときは歩行を中心に鍛錬しつつ点検して回る。ただ見て回るだけではつまらないし、何より『何もしない』よりかはずっといい。本当の事を言うならば、影の魔物と戦いたい。だが、援軍が来るまでの辛抱だ。どんな存在かはわからないが、一撃必殺を心がける所存である。
（それに、気になる話も聞いているのよね）
　桜庭円は影の魔物とのコンタクトに失敗し、傷を負った。治療をした椿美咲紀の話によると彼女の体に黒く、花のような文様が浮かび上がったという。傷は塞がったものの、今、円は僅かに鈍い痛みを体中に感じているそうだ。
　ろっこんの多用で疲労したサキリ・デイジーカッターも負傷しており、顔の一部や手足に円と同じ文様が浮かんでいた。
（どんな攻撃を受けてそうなったのかは気がかりだけど、楽しめそうね）
　蛇那伊は僅かに微笑むと、軽く体を伸ばし、見回りを続けた。

＜女子寮＞

　仙藤紫は、護身用の武器として、手に長柄の箒を持って探索を行っていた。そうしながら思ったのは、普段知っている桜花寮と現在地は、構造的によく似ている、という事だった。相違点といえば食堂の存在や、部屋の内部のランダムさぐらいだろうか？　異世界に飛ばされた瞬間に変っているのではない、と危惧していた紫だったが、このあたりは少し安堵していた。
　光源は、あるに越した事はない。彼女は何本かの蝋燭とマッチを手にし、予備に回そうと思っていた。棚ぼた的にまたたびメイトを数箱見つけたのは幸いだろう。
（LED懐中電灯なんて、そう都合よく転がっているわけないわよね）
　光源にちょうどいいとおもったのだけれど、と肩を竦める紫は、一通りみて回ると食堂を訪れた。先にここを探索した黒依アリーセと呉井陽太の報告ではあらかた調査し尽くしたそうだが……。
（まだ、缶詰とか、保存用食品が残っていたらいいのだけれども……）
　紫はそう思い戸棚を開けると……、干し肉の入った真空パックが出てきた。書いてある説明によると、空ければすぐに食べられるようだ。
「食料はまだ足りない。もっとあればよいかしら」
　紫は食堂付近を捜索し、どうにか乾パンの缶詰を３つ見つけることが出来た。だが、それ以外には見つからず、少しだけしょんぼりする紫だった。

　光の番をしていた夏夜（恵御納夏朝）は、呉井陽太に手伝ってもらいながら蛍光灯を変えていた。予備の蛍光灯を見つけることが出来た事を心から安堵しながら作業していると、陽太は眼鏡を正しながら頷いた。
「これで、こっちは大丈夫だね」
「ありがとう。助かったよ」
　さすがに、夏夜の身長では届かない場所だった。故に手伝ってもらえて嬉しかった。陽太は「次、オレがやるよぉ」と言って仮眠を取りにいく。残された夏夜は用意されたスマートフォンや携帯電話を充電器に差込み、電池が切れてしまった懐中電灯の電池を交換し、警戒しながら周囲を回っていく。
（もし、襲撃者がきたとして、ねこさんシールは１０枚のみ。量は足りないが、工夫した使い方をすれば……）
　夏夜は手回し式懐中電灯のクランク式レバーを回しながら、周囲を警戒し点検していくのだった。