勇者オーディションIN寝子島！｜リアクション

勇者オーディションIN寝子島！

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　Ｂ－2暖かな湯で回復だあ

「『だあ』ってなにかしら」
　翠響は寝子島温泉へとやって来ていた。馬車から降りて歩きながら、紙面と周囲を見比べる。
「終点の長の『かお』も変にひらがなだったし……」
　翠響としては何か意味があるのだと読み、星ヶ丘駅に着くまで色々と考えつくことをしてみた。結局、神官のようなコスプレをした臨時駅長がいて、被り物にオーブが着いていたというオチだった。
　待ってる間の試練とやらで商品券が貰えたので、それはそれで良いとして。
「――あった」
　もしかしたらと思ったが、駅と同じ受付のようなものができている。場所の特定さえできれば、あとはなんとかなりそうだ。
「それで、どうしてここに？」
　翠響が受付に座る人物にたずねる。彼は翠響に気付くと、おもむろに低い笑いをあげ始めた。
「クックック。来たな勇者、待ちわびたぞ」
　オープニングイベントで出てきた、紫色の顔の男だった。
「貴様らに敗れた俺様は、地獄のふちから蘇ったのだ！」
「そ、そう……」
　まさかこんな屋外でアドリブをするのかと思ったが、男が手で『大丈夫っス』みたいなジェスチャーをする。勝手にパフォーマンスをしてくれるらしい。
　翠響がほっとしつつも、そっと周りを見る。男が大きな声でしゃべるものだから――というか、格好が目立つので――何人かが面白がって見にきている。
　この寒空の中、メンタルの強いおっさんである。
「勇者ミユラよ、この火山が貴様の墓場となるのだ！」
「……火山？」
「この火山が貴様の墓場となるのだ！」
　そういう設定か！
「というわけで、こいつで勝負だ」
　男がそう言って示したのは、少し離れた場所にある、六枚のパネルのついたボードだ。
　ご丁寧に男のデフォルメされたキャラ絵が描かれている。
「ここからボールを三つ投げて、何枚射抜けるかな？」
「なるほど、そういう勝負ね」
　テレビで似たような趣旨の番組があった気がする。あれよりは簡単そうだ。
　翠響がパネルを見る。温泉卵やら菓子といった、この周辺で売られている物が景品のようで、ボールでパネルを射抜けばもらえるようだ。一枚だけ『全部タワシと交換！』という鬼畜じみたパネルがあるが――この距離ならなんとかなりそうだ。
　不満なのが、五枚の景品に対して手数が三球ということ。
「ねえ、練習していい？」
「構わんぞ。二球だ」
　渡されたボールを、翠響が投げる。投げたそれはすぐさま地面で衝突し、バウンドしてパネルの下部にぶつかった。
　二球目。今度も届かず、どころかパネルの横を素通りするほどのノーコンぶりを見せて転がっていく。翠響が振り返ると男が紫顔をしかめていた。小声で聞いてくる。
「もう少し前で投げます？」
「うーん、それより、投げる数を増やして欲しいわ。夢だけでも見たいもの」
　ちょっと甘えた声で言うと、さもありなんと本番は五球が渡された。翠響が笑みをこぼす。
「――じゃ、始めるわね」
　ボールがパネルを射抜いた。拍手が上がるが、立て続けに三枚が射抜かれたあたりで男が言った。
「おのれぇ、謀ったな！」
「フフン、侮ったわね」
　翠響が勇者ロールで返す。四枚目がボールに当たって落ちていく。
「選ぶのは三つにするけれど、綺麗に五枚とも射抜いて完勝させてもらうわ」
　余裕の笑みで最後の一投を放つ。
「あ」
　すっぽぬけた。
　当初の軌道から外れた球は、それでもなんとかパネルを叩き落す。
「フハハハハ！　というわけで、景品はタワシ四個だな!」
　がくり肩を落とした翠響に、男が高笑いを放つ。
　その声が本当に嬉しそうで、腹が立った。

　あとでオーブを貰った。